52
ドイル一行は自宅に帰った。久しぶりの家族団欒のときである。しかし迎えたジーンのほうはそうはいかなかった。
特に彼女は、シャーロックとして認識していた人間の代わりに、増えた男を不思議そうに見た。
案内された部屋ではドイルの母親が椅子に座っていた。
「おばあちゃん!」
「グランマ!」
英語では同じ文句であるが、口々に抱きつく孫たちの声はそれぞれ違って聞こえた。
「可愛い可愛い私の……」
グランマの顔が歪んだ。
「シャーロック・ホームズ!」
室内の全員が男を振り返った。ワトソンに抱かれたデニスが口をきいた。
「グランマ、知ってるの? この人は――あっ」
デニスが指を差した扉の側を見たワトソンは息をのんだ。
「……え?」
鏡でも置かれているのか。どこかで自分を驚かせる目的のためだけに、誰かが仕組んで似た人間を探したのか。
「ワトソン」
ドイルがつぶやいた。ホームズは顔を明るくした。扉の脇から呼ばれた男が動いた。
目が合った。気持ち悪さにワトソンが身震いすると、もう一人のワトソンも同じようにした。
次の瞬間、ドイルが昏倒した。感動の再開はそれまでだった。
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