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 列車に揺られながら、不釣り合いな三人が向き合っていた。

「お養母さま。いったいどちらへ」

 ジーンは指を何度も擦り合わせ、姑とワトソンを見比べた。ワトソンはどう見ても夫の友人にそっくりだった。強いてあげるなら歳が少し若いようだが、現実のワトソンよりやつれているため雰囲気は重苦しかった。

 ワトソンは口を利かなかった。彼は当初いくら説明しても、自分が本の世界から来たことを認められなかったのだが、彼の世界では死んだはずの妻と対面させられ納得した。

「貴女は知らなくていいのよ。黙っていれば悪いようにはならないわ」

 とてもそうは思えなかった。ジーンは儀式の手順に立ち会うことが精神的な負担となり、顔を強張らせて窓の外を見た。

 遠くに時計台が天を突き上げるように悠然と立っており、彼女はホームズを思い出した。正確には探偵ではなかったのだが――そして彼はロンドンの霧に紛れるように本の世界に戻ってしまったのだが――、もはやどうでもいいことだった。

 ドイルの母親は目を瞑り、穏やかな笑みさえ浮かべていた。

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