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 ドイルの体調が急変した。酷く頭痛がするのだと訴えるドイルをホームズが支え、ワトソンは赤ん坊を抱いて山を降りた。

 長女と長男に再会してからもドイルの不調は同じだった。二人は突如現れたホームズと、消えてしまったモリアーティの話を聞いても動揺しなかった。

「イギリスへ帰ろう。グランマの元へ」

 キングズリーの言葉に姉も頷いた。父親のほうはすぐに旅立てる様子ではないように見えたが、浅く息をしながらもドイルは口ずさんだ。

「ホームズ――ホームズとワトソン」

 ワトソンはまだ自分が持っている本をドイルに差し出した。しかし驚くべきことに、開いた本の中身は半分以上消えていた。

「ドイルの頭の中に吸収されているようだ。早くワトソンを捕まえないと、僕も彼も存在自体がなくなってしまうだろう」

 ホームズは蒼白な顔でいった。ワトソンは彼のいう『ワトソン』が自分でないことを既に知っていた。

「どうしてそんな面倒なことが……」

「ドイルの中では、まだ現実の君と創作の君が区別できていないからだ。ドイルの中での辻褄が合わないことには、僕の存在は行き場がない。ドイルの母親が成し遂げたのは、君たちの知る単純な降霊術などじゃないんだ」

 ドイルはそこで顔を上げた。唇を震わせ、言葉を発するまでにかなりの時間を要した。

「マァム――」

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