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「ホームズさん」
ドイルは赤ん坊をギュッと抱きしめた。「貴方がいつから私たち家族の中に入ってきたか、私は覚えていない」
「私は覚えている。君の奥さんが亡くなったすぐ後だ。まだほんの数年だ」モリアーティは応えた。
「――母は貴方を客としてではなく、自分の分身、私のもともと持っていた友人のように丁重にもてなせと言いました。でも私はそうはできなかった」
本物のホームズは腕を組みながら、ドイルの背中だけをじっと見ていた。その場にそぐわない怪しい行商人にしか見えなかった。
「霊媒に反対したからだな」
「それだけではない」
ドイルはデニスの頭を撫でた。「私は貴方の眼の中に、言い様のない非難を感じるのだ。理由はわからないが、苦しい叫びだ。私にはそれが耐え難い」
「……」
「何か理由があるなら、聞きましょう。ですが子供たちは関係ない。私を探してなどと偽って、ワトソン博士はおろか、こんな小さな息子まで駆り出して」
ワトソンは拳を握りしめた。「それは違うぞ、ドイル君。彼は――ホームズ君は、君が理由もなく失踪するなんて初めから考えていなかったはずだ」
対峙している周りでは、ひしめきあった者たちがワトソンに同意した。モリアーティが慕われているのには理由があった。
これはワトソンの知るところではなかったが、ジェームズ・モリアーティは探偵最大の宿敵にして、謎を考えるという手間さえ惜しまれ、他の犯人たち以下の不当な扱いを受けた気の毒な人物だからだ。
モリアーティーが口を開きかけた、そのときだった。
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