【京極堂】


『中禅寺家の一族(奈津子)』



 最初に渡されたとき何なんこれ!って声あげたんよ。



 もうほんまに嘆かわしいんやけど、仕方ないなあ。始めたんやしなあ。

 子供の尻拭いは親の役目。それにしても、

 関口側には文才が備わってて、どちらかといえば中禅寺側にはそれがない。



 言いたないんですけど――――中禅寺夏美の母親です。



 あの娘、普段はこんな話し方せぇへん。ただ、ブログというのは世界中に流れるもので、無差別にいろんな人が見れる。

 自分と離れた人格をある程度つくったん違うかしら。

 弱るわあ。機械とか面倒で、人に任せきりなんよね。でも、夕紀子さんニコニコして待っとるし。みんな書いとるらしいし。

 兄貴、結構本気で家族会議開きたいみたいやし。

 せやから





 お母はんだけは、京都弁でええかな?





□□□


 うちの母親は京都老舗の和菓子屋から中禅寺の嫁に来て、

 もともと妹みたいに可愛がってた敦子叔母さんとは、姉妹のようでした。

 敦子叔母さん、うちのお父ちゃんとはどっこも似とらんの。

 写真見たら一目瞭然。芥川某って、頭大きいでしょ。中身が仰山詰まってるみたいに見えるけど、ちぃと額が広いし。

 河童描くの好きやったから、きっと晩年があったら河童ハゲになっとったんとちがいます?



 言うたらあかんのやろけど……



 うちのお父ちゃんも、中禅寺秋彦、

 頭の毛ェないんよねぇ。

 つるっぱげまでいかんやろけど。



 ――――夕紀子さんが、



 婦女子の夢壊したらあきまへん。髪の毛フサフサ言うといてってしきりに叫んではる。

 もちろん夕紀子さんは江戸っ子連中にしか育てられてへんから、普通にやけど。

 うちみたいにお母ちゃんの実家にほられることが多かった事情もないし。

 関口のおいちゃんに、ようお負ぶさってたはった。羨ましかった。





 お父ちゃんは、そんなこと、させてくれた覚えないもん。





□□□


 お父ちゃんが黒い着物着はるとき、うちだけよく京都に預けられたんですよ。

 兄貴はなあ。榎木津さんとこでよかったから、喋れませんけど。


 え?なに。なんで?夕紀子さん。

 さっきの『婦女子』。おうとるんやないの?

『腐』に打ち変えてって……つるっぱげのくだりはええから、そこは変えてって……

『ふじょし』って打っても『婦女子』出るわよ……



 はい、わかりました。後で打ち直す。



 なんやようわからんのやけど、禿・太・髭には触れたらあかん世界があるんやてね。

 腐った女子の夢壊したらあかん。禿禿好きやったらますます腐るって言うん。

 六代目円楽×歌丸やったら、楽さんはぎりぎりハゲてないからいけるでしょう?って説得されたん。

 逆違うんや……?

 わからんわあ。年の順と違うのん。背の順?どっちでもええですけど

 お父ちゃんやって見た目と性格で言うたらどう考えても――――





 攻めやもんなあ。
(あっ。夕紀子さんひっくら返った!どないしたらええの。あなたーっ!)。





□□□


 亭主も鎮座ましまし。なんか小さくなっとります。


 夕紀子さんにはこの人から回ってきたん。もう、こそこそやめて。どうせやったらうちも混ぜて。

 中年女のうちがなんでBL用語知っとるか?うふふふふ。

 腐るってあんまりやけど、女子の夢言うからには、どういう女のコたちのことを表してるかわかるわ。

 女編集長になってから、夕紀子さんが真っ先に企画したのが携帯ホームページの開設と出版。

 試しに彼女のお父さんに携帯渡して書かせたら、あの方、おいちゃん、根暗でしょ。

 ネットに向いてはったんよね!すごく面白い小説やった。

 BLというのがボーイズラブの頭文字であることは、うちも知ってます。

 でもねぇ。秋雄君も知らんし、うちの人も、夏美も、兄貴も、夕紀子義姉さんも知らんと思うし

 お父ちゃんは絶対知ったら怒るし…………



 書いてもええ言うたよね?

 やめとこか?



 関口のおいちゃん、うちだけには教えてくれたんよ。

 掲示板えらい侃々諤々で、余所じゃあ


『老人BL歓迎同盟』の賛成意見と、

『マジホモ推奨機構』

『明るいゲイライフを!<ホモバイレズ>倶楽部』の反対意見が

ガンガン出てるって聞いたんな。

 今日はやめとこ。





 言いたかったら、おいちゃんが自分で書きはるわ。





□□□


 あきまへん。駄目やて。

 夕紀子さん、ほんまに知らんの?


 いややわあ。まずいわあ。

 ぱぱ、何か聞いとらんの?あなた?


 鳥口のおじいちゃま知ってはったよ。さすがやねぇ。敦子叔母さまは知らんかった。

 二人とも関口おいちゃんの編集者でも、系統は全く別やったものね。

 ひとりで拗ねとるんかて……そんなん当たり前でしょ!

 うちには夏美の携帯のこと黙ってて、夕紀子義姉さんとこに持っていったんやないの。

 そりゃ昔は兄貴含めて四人で遊んで、兄弟みたいに育ったからあれやけど。



 なに?うん。



 兄貴もうちには持って来んかったから、怒っとる。

 夏美は仕方ないけど。

 うち、自分のお母はんみたいに物わかりようないんよ。亭主が仕事以外でこそこそしてたら尻ひっぱたきますよ。

 叔母さまがそうしろって。だからうちとこは上手いこといってるんでしょう。





 男が権限を握るようになったら、中禅寺家は当の昔にのうなっとりました。





□□□


 うちは携帯向いとらんの。

 大文字の出し方ようせえへん。どうやるの。

 実はな、関口のおいちゃん。ネットで携帯小説書くようになってから、





 自分で関京書いてるんよ、サイト作って。






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