斉藤一紗
=斉藤一紗side=
冬がやってきた。
天気予報では雪が降ると言うのに、全く雪など降らない冬。
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俺は白い息を吐きながら、花屋で手をボロボロにしていた。
お花には、やっぱ素手に冷たい水に限る。
「斉藤さん、痛いでしょう、それ」
飽きることなく俺のお店に遊びに来る高校生の佐々木くんは、またそんな心配をしてくれる。
確かにビジュアル的には悲痛な手になっているもんな。
俺は「痛いよ。見たまんま」と言いながら、水に素手を突っ込んで、痛い思いをする。
それでもよかった。
皮膚が切れようと、どうなろうと、大好きなお花のためになれるならば、これ以上の幸せなんてない。だから、無理はしないでね、と言いたそうな佐々木くんに、俺は微笑む。口にし飽きた台詞を言う。
「無理はしているって自覚はあるけども、大切なお花のためだもん」
「……そう言われると」
しかたないのかな、と佐々木くんは溜息をついた。
しかたないんだよ、と俺は答えた。
すると佐々木くんは「じゃあ、おまじないさせて」と言う。
俺は佐々木くんに言われるまま、右手を出した。
「え…っ」
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