斉藤一紗




=斉藤一紗side=


冬がやってきた。
天気予報では雪が降ると言うのに、全く雪など降らない冬。



*****


俺は白い息を吐きながら、花屋で手をボロボロにしていた。
お花には、やっぱ素手に冷たい水に限る。

「斉藤さん、痛いでしょう、それ」

飽きることなく俺のお店に遊びに来る高校生の佐々木くんは、またそんな心配をしてくれる。
確かにビジュアル的には悲痛な手になっているもんな。
俺は「痛いよ。見たまんま」と言いながら、水に素手を突っ込んで、痛い思いをする。

それでもよかった。

皮膚が切れようと、どうなろうと、大好きなお花のためになれるならば、これ以上の幸せなんてない。だから、無理はしないでね、と言いたそうな佐々木くんに、俺は微笑む。口にし飽きた台詞を言う。

「無理はしているって自覚はあるけども、大切なお花のためだもん」

「……そう言われると」

しかたないのかな、と佐々木くんは溜息をついた。
しかたないんだよ、と俺は答えた。

すると佐々木くんは「じゃあ、おまじないさせて」と言う。
俺は佐々木くんに言われるまま、右手を出した。

「え…っ」




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