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それはとても静かな場所だった。
騒がしい商店街にある花屋さんの奥に足を踏み入れて驚いた。
まるで別世界のようだった。
「すみませーん」
俺は奥の扉に向かって呼びかけた。
するとすぐに店員さ……いや、あの日俺がぶつかった人が出てきた。
「どうされました?」
満面の笑みで聞かれた。
俺も嬉しくなって笑いそうになった。
でも、笑えなかった。
「……いえ、貴方の方こそ」
どうされたんですか?
と聞きかけて慌てて言葉を飲みほした。
俺なんかが聞いていいわけがないし、聞く意味がわからない。
ただ、綺麗な顔に、泣きはらしたような跡があるだなんて。
「……………」
「あ、あの、そうじゃなくて、その、昨日、俺、貴方にぶつかって、それをちゃんとまだ謝れていなくて、だから、謝りたいって思って、あの、尋ねてきました。すみません」
「…………」
「いちいち、気にするようなことじゃないと思われたなら、それもすみません。俺、貴方が気になってきました。あの!」
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