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「そうなんだよ、ここ、俺の家が経営してんの。ていうか、斉藤ってこの辺の人だったんだな。俺、てっきり遠くに住んでいるのかと思っていたよ。大学に最近こないし、通学しんどいのかなって心配していたんだぞ」
「通学自体はしんどくない。勉強がついていけないんだ。バイトばかりしすぎてさぁ…」
「あ、わかる。俺も!」
「え、嘘だ」
俺は彼の頭よさを知っていて、同情はいらないよと言った。
すると彼は「俺は満点をとるくらい勉強ができなくなってやきもきしているんだ」とか言う。次元が違いすぎる。
「…て、すみません。えと、二名様ご案内です!」
立ち話をしていたのが店主である父親に見つかったのだろう。
彼は苦笑いをすると俺と佐々木くんをテーブルまで案内してくれた。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「はい、俺、オススメラーメン定食」
「あ、俺も」
「かしこまりました。オススメラーメン定食がお二つですね」
ごゆっくり、と彼は頭を下げると忙しなく他の接客に行った。
俺は佐々木くんに彼は大学の知り合いだと説明しようとした。
でも佐々木くんは不機嫌そうに眉を寄せていて、俺は言葉をのむ。
しばらくして、佐々木くんはにっこりとほほ笑んでくれたけども。
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