「…………」

その時、彼は泣いてしまいそうなくらい嬉しそうに、下手くそに微笑んだ。
俺はそんな学生を見て戸惑った。

なんていうのかな…

心が引きこまれていくのが自分でもわかったんだ。
それが、嬉しくて、何処か怖かった。
俺は憶病だった。

学生が帰った後、しばらく、頬が緩んでしまっていた。
たまたま映ったガラスに、微笑んでいるような俺の顔が見える。
途端、背筋が冷えていく。

「…………」

俺は、人を傷つけた。
なのに、俺は、今、その場所で幸せそうにしている。
それは許されることじゃない。
決して、許されることじゃないんだ。
最低な俺。

「すみませーん」

「はい」

お客様の声でまた仮面をかぶって笑う。
その瞬間だけは、俺の心の中はただ空っぽで、怖いものなんてなかった。

ずっとこうしていられたら、いいのに。




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