6
「…………」
その時、彼は泣いてしまいそうなくらい嬉しそうに、下手くそに微笑んだ。
俺はそんな学生を見て戸惑った。
なんていうのかな…
心が引きこまれていくのが自分でもわかったんだ。
それが、嬉しくて、何処か怖かった。
俺は憶病だった。
学生が帰った後、しばらく、頬が緩んでしまっていた。
たまたま映ったガラスに、微笑んでいるような俺の顔が見える。
途端、背筋が冷えていく。
「…………」
俺は、人を傷つけた。
なのに、俺は、今、その場所で幸せそうにしている。
それは許されることじゃない。
決して、許されることじゃないんだ。
最低な俺。
「すみませーん」
「はい」
お客様の声でまた仮面をかぶって笑う。
その瞬間だけは、俺の心の中はただ空っぽで、怖いものなんてなかった。
ずっとこうしていられたら、いいのに。
- 18 -
[*前] | [次#]
目次に戻る→
以下はナノ様の広告になります。