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その後、俺は彼から手を放すと、にっこりと笑った。
彼は顔を赤くして俺のことを見つめていた。
何か言いたいことがあるみたいだった。
だけど、俺はそれに気がつかないふりをした。

「ほら、『ジュン』遅刻するよ」

「え、ええ、ああ、うん、あ、そっか」

挙動不審に頷くと彼は俺の横を歩きだした。
二人っきりの登校だなんて…と俺が幸せを噛みしめていたら、勝山が「おはようさん」と俺と『ジュン』の間に挟まってきた。

「おはよう、勝山」

『ジュン』はどこか安堵したような笑顔を浮かべた。
俺はそれを見て思った。
今の俺たちにはこれくらいの距離がいいのかもしれない。
間に勝山が挟まるくらいの。
でも、いつかは勝山が挟まらなくてもよくなって、いけばいいな。

「勝山、今日は彼女自慢控えめにしろよ」

「なに、藤井、俺の話しがそんなにも妬ましいのか! そうなんだな。じゃあ、一杯話す。悔しかったら彼女でも作ってみろって!」

ばこばこと俺の背中を叩きながら勝山は笑った。
ここ数日一緒にいたせいか、俺はそんな勝山には慣れてしまった。

「恋人は好きだから作るものだよ。欲しいから作るものじゃない」

真摯に俺はそんなことを言ってしまった。




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