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「あ、あの、俺、上手く言えないけど、中野くんのこと嫌いになんてならないよ」
「…どうして、なんですか?」
こんな目にあったのは俺のせいなんですよって、中野くんは言った。
でも、俺はそう思えなかった。
「中野くんは、悪くないよ。中野くんが俺に薬をかがせたわけじゃないし」
「……っ」
「あ、ごめん、中野くんの後輩のこと悪く言って。違うの。きっと俺が、その、俺が、悪かったからかな、うんそう俺が」
「香坂先輩っ!」
「は、はい」
「悪いのは俺の後輩です。それから、こんなことになる種をまいた俺です…」
「中野くん…」
「嫌ってくださってもいいですよ…嫌じゃないですか、やっぱりこんな変なことに巻き込まれるのって…」
中野くんはそう言って、俺を支えていた手を放そうとして、放さなかった。
その時、俺は、なんとなく戻りつつある身体を動かして中野くんを抱きしめた。
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