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やっと開いた瞳で見つめたのは、後悔しているって顔をして、俺を見下ろしている、中野くんだった。
「香坂先輩には言いたくなかったんですが、俺、高校に入るまでは悪いこと一杯して、たんです。不良っていうのか、その、考えなしだったと言うのか…上手く言えませんが、香坂先輩からしたら、嫌われても仕方ないような、俺だったんです。でも俺、今度こそは変わりたいって思って…」
「中野くん…」
「いつだって、誰だって俺を疑うことしかしなかった。でも、香坂先輩はただ純粋に俺を信じてくれたから、それがとても嬉しくて…俺は…でも、だからって、誰よりも大切な貴方をこんなことに巻き込んでしまったら…駄目ですよね。本当にごめんなさい」
「……謝らないで」
「そうですよね、許されるようなことじゃ」
「違うの。俺、中野くんに謝って欲しいことなんて何もないのに、謝られてしまうとどうしたらいいのかわからないから…」
確かに怖かったよ。
急に自分の意識が飛んだのも。
何処か遠くで断片的に聞こえた喧嘩の声も。
確かに怖かったよ。
怖かったけど、中野くんがそこにいるなら、大丈夫だって、思っていたんだよ?
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