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「中野くん、さっきのは…」

路地裏の先にある大通りを数人が通り過ぎるのを見て、俺は心配になった。
彼らは、中野くんを探していたみたいなのに、中野くんは、俺のこと、ぎゅっと抱きしめたまま、大通りを睨んでいる。

「香坂先輩、なんでもないですよ。ただね、ちょっと喧嘩してしまって、今は逃げたい気分なんですよ、俺」

だから、見つからないように協力してください、と言われて、俺は黙り込んだ。
もとから、俺の声は大きくないから、大丈夫だとは思うけども、俺のせいで中野くんに迷惑がかかるのは、嫌だった。

「あの、こっちに来てくれますか?」

囁くような小さな声で中野くんは、俺の手を握り、大通りから遠ざかるように路地裏を歩き出した。
俺は何も言わずにただ、中野くんの後をついていった。


ただ、少し疑問に思ったことは、俺の中で押し殺した。
中野くんが俺までもつれて彼らから身を隠す理由って何だろうってこと。
それってもしかして、俺が中野くんに信頼されていないから、なのかなって。

そんなことないって、頭を振って消し去った。
消し去ったつもり…

ただ、路地裏をさらに奥へと進んでいく中野くんの姿が何処か遠く見えて、俺は握られた手を、強く握り返した。




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