遠くの王子様じゃなくて
優しい手がある。
俺が落ち込んで悲しい時に、俺の頭を撫でてくれる、
優しい手がある。
その手の持ち主は、王子様のようにキラキラしている中野くん。
中野くんは一年生の後輩で、少し怒りんぼうさんで、
昔この辺を一つにまとめた不良らしいけど、
俺にはそれが理解できなかった。
だって、中野くんはとても人懐っこくて、いい子だもん。
空くんも木村先生も兄ちゃんもみんな、中野くんのこと誤解しているようだけど、俺だけは中野くんのことちゃんとわかっているんだと自慢げにいつも思ってた。
「香坂先輩、今日で俺たち出会って一カ月になるので、抱擁させて下さい!」
中野くんは生徒会室の扉を開けるなりそう言った。
空くんがちょっと困ったような顔をして、俺と中野くんの間に立つ。
「いい加減にしろ!」
「空くん?」
おとなしい空くんが叫んだから俺は驚いた。
何か嫌なことでもあったのかな?
「中野、香坂は馬鹿だから、のほほんとお前の思いを受け取っているが、意味なんてわかってないんだ、気がつけ!」
「空くん、どうしたの、俺、何がわかってないの?」
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