「でも、どうして黙っていたんですか?」
俺は不思議に思った。
どうして、俺が、サラリーマンだとか言っても突っ込まなかったんだろう。
先生なら「嘘、遠山君でしょ」なんて言いそうなのに。

「…遠山君が、俺じゃないって思って電話をしているなら、その方がいいと思ったから…」
「どうしてですか?」
「いや、その方が、遠山君のお話たくさん聞けるなって思って…その」
だんだんと先生は俺と距離をつくる。
俺はその距離をただ見つめた。
「でもね、なんだか、辛くなったの。俺が決めたのにね、知らないふりをするって」
おかしいよねって先生は呟く。
俺はおかしくないって言った。
「俺も、少しだけ…辛かったんです…。俺じゃない誰かなら、先生はそんなにもいろいろと話くれるんだなって思ったりして…」
「え…」
「気持ち悪い話ですよね」
「そ、そんなことないよ、俺も…そうだし…」
「…………っ」
ぶわっと何かが胸の中に溢れたような感覚の後に、俺は勢い余って先生に抱きついてしまった。
やっぱり、見た目通り、何処か、華奢な身体だった。
愛おしくて泣けてきそうだ。

「遠山君、放してっ」
しばらくして先生は俺の腕の中でそう言った。
俺はやってしまったと反省しながらゆっくりと手を放すと、今度は先生の方から俺の腕の中に飛び込んできた。
「……あ、驚いてる!」




- 27 -


[*前] | [次#]
目次に戻る→



以下はナノ様の広告になります。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -