先生の第一声は「助けて」だった。
本当に弱々しい声で絞り出すようにそれだけ。
その後、少ししてから「ほっといて」と言った。

「ほっとけないですよ、近藤さん」
俺は何が今どうなっているのかわからない。でも、きっと、先生の電話から繋がっている俺は、先生にしたら、どこかの見知らなぬサラリーマンだ。
「それに、近藤さん、辛そう…」
「そんなことないよ、大丈夫」
「大丈夫になんて思えません!」
いつも見ていたら、知っている。
いつも聞いていたから、知っている。
近藤先生は、どんなに辛くても、一言も「助けて」なんて言ったことがない。

「と、ま、これくらいにして、遠山、来いよ、近くの公園」
先生から電話を取り上げて、内田は淡々と言った。
「行くに決まってんだろ」
「ま。来たら、遠山はどうなるんだろう」
「あ…」
今、先生の携帯電話のテレホン友達はサラリーマン。
でもその正体は嘘ばっかり付いていた、俺、遠山晴だ。

「ていうか、お前、先生のこと傷つける奴が許せなかったんじゃないのかよ」
俺は苦し紛れでそう言った。
すると内田は鼻で笑い、急に声のトーンを下げた。
「そうだよ、先生のこと、苦しめているお前が俺はとても許せないから、こんなことしてんだよ」
「内田…」
「俺さ、正直イライラするんだよ、お前見ていたらさ」
「……ぇ」
友達だろって言葉、俺は飲みこんでしまった。




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