第二話「泣き虫ヒーロー」


次の日、学校に行くと、どうしてか近藤先生が俺のもとに走ってきた。
嬉しくて、胸のなか、きゅっと鳴った。

「遠山君、これ、落としていたみたいだよ」
「え、あ、これ、俺のペン」
なくした記憶もないのに先生の手の平に乗った赤い色の何処か悪趣味なサインペンに俺は笑った。昔、頭のいい俺の兄さんがこれを使って、いい大学に合格したからとかいうただそれだけのとんでもない理由で親に持たされている奴だった。証拠に、小さく「マナ」と兄さんの名前が彫られている。
「でも、先生、よく俺のだってわかりましたね」
嬉しくて俺はほほ笑んだ。いくらこんな悪趣味なサインペンだとしても、俺じゃなくて兄さんの名前が彫られているんだから、わからないだろうに。
きっと授業中か何かで、俺のこと、少しは見ていてくれたって思ってもいいのかな。
ほくほく幸せを感じながら俺はおもむろに先生に視線を戻した。

どうしてだろう、先生、悲しそうな顔をしている。

「近藤先生…」
「え、何、わ、ごめん、なんか、赤色見ていたら、感傷に浸ってしまった」
赤色で感傷に浸るって、それ、好きな女の子のこと思い出したってこと?
俺は急に自分の胸の中が空っぽになったかの様に感じた。
冷えてゆく…
「遠山君?」
「あ、すみません、俺も少しぼーっとしてしまって。わざわざありがとうございました」
「え、あ、う…ん」
俺は先生の手の平から悪趣味なサインペンを取ると、そのまま教室に入った。
振り返えることなんて出来なかった。
自分が泣いているって、静かに机に顔を伏せて知った。
ごめんなさい。




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