10




「……どうしよう」
イタリア料理店で夜ごはんを食べることになった。なんだか高級感のあるテーブルに案内されると、分厚いメニュー表を渡された。
兄さんはそのメニュー表に悩まされているみたいだ。
「うぅ、僕、ここの料理ってディスプレイのしかないって安堵していた」
「じゃあ、あれにしたらいいじゃん」
「そうだけど、そうなんだけど…」
「ちゃんと全部のメニューを確認したいんでしょ。俺なら悩んでいる兄さんを眺めているから、遠慮なく悩んで」
「…う、眺められたら、気になるじゃん」
分厚いメニュー表から少しだけ顔を出して兄さんは膨れた。駄目だよ、兄さん。兄さんがそんなことしても、可愛いだけよ、ああ、もう。
「あ、でも、僕、パスタにする!」
「何パスタ?」
「え、え、えーと、え、何にしようかな…」
再び悩ましげに兄さんはメニュー表を見つめる。俺はつい、意地悪をしたくなる。あえて、兄さんの好きな三つのパスタを「カルボナーラも、クリームソースも、あ、定番のミートもいいね?」と口にして笑った。
兄さんはだんだん半泣き状態になって「ミートにする」と決断を下した。
グルメなくせに胃袋が小さいと可哀相だと俺は思った。

「すみません。ミートスパゲティーとカルボナーラ一つずつお願いします」
俺がそうやって店員さんに頼むと、兄さんは俺の服の袖を掴んで瞳をキラキラさせてくる。
「半分こしてあげるよ、ちゃんと」
「え、いいの?」
嬉しそうに「カルボナーラも食べたかったんだぁ」と兄さんはほほ笑む。

「もとからそのつもりで頼んだし…」
「え、なんて?」
なんでもないよ、と俺は答えた。兄さんはそんな計算知らなくてもいいんだ。




- 11 -


[*前] | [次#]
目次に戻る→


以下はナノ様の広告になります。
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -