「ねぇ、メグミ」
あれから元気を取り戻した…と言うよりもいつも通りに戻った兄さんは、ホットミルクを抱えて部屋の隅っこで丸くなっていた。たぶん、後になって抱きついたことが恥ずかしくなったのだろう。
それに、兄さんは変なところで、兄さんぶるから、弟である俺に甘えたのがちょっと不甲斐ないと思ったのかもしれない。
「今日、メグミは忙しい?」
「全然そんなことないよ」
自信なさげに兄さんがそう言う時は、例外なく俺に構ってほしい時だと知っているから、俺は、出来る限り優しくほほ笑んだ。
すると兄さんが嬉しそうに「じゃあさ」と瞳を輝かせる。

俺は兄さんのこの表情に弱い。

「なんかさ、最近、そこの駅にショッピングモールできたでしょ、行きたいんだけど…一人じゃ行きにくくて」
「わかった。一緒に行こう。今日は姉さん帰ってこないと思うから、夜はそこで何か食べようか?」
「え、いいの?」
兄さんは嬉しそうに身体を前のめりにする。よっぽどお目当てのお店があるようだ。
「うん。兄さんの好きなお店で食べよう」
「メグミ…」
「…ちゃんと買い物にも付き合うよ、だから、後少しだけ待ってて」
「うん、僕、靴磨いて待っている」
ホットミルクの入っていたマグカップをそのまま床に置いて兄さんは鼻歌まじりに玄関の方へと消えて行った。

「もっと我がまま言ってくれてもいいのに…」
絶対に、遠まわしにしか自分の主張をしない兄さんに俺は溜息をついた。
呆れているからじゃなくて、ほんの少し、温かい溜息。




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