4.ポインセチア【2】




「失礼だな、俺だって、いろいろ考えている。生まれてきた理由は特に知りたいことなんだ。全く見当もつかないけどな」

「ていうか、生まれることに理由なんているのかな?」

「……どういうわけ?」

「だってさ、強制的過ぎない? 気が付いたら、俺たちはこんな世界に産み落とされて、存在させられて、親も選ばせてはくれていない。そんな人生の始まりに理由をつけるとしたら、ただ言えるのは親が性行為をしたということくらいだろうな」

「確かに強制的だな」

俺は椅子にもたれかかって天井を見上げた。

「やっぱり答えなんてないのかもしれないな」

ずっと探していた、生まれてきた意味を俺は知らないまま、死ぬのだろうか。そんなの果てしなく嫌だ。

「依月、依月は理由が欲しいの? だったら、俺に会うためってことにしておいてよ」

「はぁ?」

「俺は依月に会うために生まれてきたって思っているし」

「なんだよ、その後付けみたいな理由は」

「理由がないんだし、後付けでいいと思うけど。駄目?」

「……後付けの理由か」

「そうそう。たとえば依月の場合は愉快な日々を過ごすためってことかもしれないよ」

「そっか、そうだよな」

「そうそう。生まれてきた理由なんてわからなくても、今、ここに居るんだし、思いっきり楽しまないと損だと思うよ、特に依月はね」

ヘタレは笑う。優しく包み込むように、蛍光灯に照らされて。
ああ……
探しても見つからないものがあった。
でも、探し当てないといけないものではなかったのかもしれない。
と、優平を見ていると、思う。
俺もどうやら緩い人間になりつつあるのかもしれない。
それが、とても不快で、何処かこそばゆい。



馬鹿みたいだ。



「だなんて、俺が言ったら、考えなしだって、依月は怒る?」

「そんなことない。ありがとう優平。やっぱり俺、今日はじっとしていられないよ! 校内ドッキリイベント繰り出してくる!」

「ちょっと待て、依月」

「待ちたくない。俺は愉快犯だ」

「今日は一緒に居て欲しいんだ、俺と」

「なんで?」

「依月、今日はおとなしく何もしないことで、みんなを驚かせるって言っていたじゃないか」

「そういえば!」

すっかりと忘れていたと俺は頷く。すると優平は素早く俺の手首を掴むと、ブレスレットをはめた。

「クリスマスプレゼント」

「いらねぇーよ、別に俺、お前に気を使われる筋合いないし」

「そうかな、俺、優平にサンタ服貰ったのに…」

あんな嫌がらせの押し付けに感謝されても逆に困る。ていうか、優平、部屋に女物のサンタ服を普通に展示するなよな。送った俺も悪いが、他の連中がアレを見たら、引くだろうな…。でもさ、優平にもらったブレスレット、実は前からずっと欲しかったやつだ。嬉しい。でも、これ、高いぞ。けど……

「……これは、サンタ服のお礼ってことでもらっておいてやる」

大好きなブランドのブレスレット。
俺は駄目だと思いながらも手放す覚悟がつかなかった。しかたない。
なのに「ありがとう」と優平が嬉しそうに笑う。なんでお前が嬉しそうなんだよ、意味がわからねぇ!

「は? なんで、お前がお礼を言うんだよ、まじでわからない」

「だって依月にクリスマスプレゼントを渡せたんだよ。嬉しいじゃないか」

「そうか…?」

駄目だ、やっぱり、俺には優平の言っている意味がわからない。ほんの少しはわかる気もしたが、やっぱりわからないことにしておく。

わかりたくなんだ。

「しかたないな、外は寒いし、ここでお前が仕事を終えるのをストーブにでも当たって待っていてやろう」

「じゃあ終わったら俺の部屋にきてよ。和菓子買っておいてあるんだ」

「お前、和菓子好きだな」

「え、和菓子は依月が好きなんでしょう?」

何を言いだすのとでも言いたげに優平は呟く。

「そりゃ、俺は和菓子、好きだけども、クリスマスまで和菓子を用意しているお前の方が、和菓子好きなんじゃないかって思っただけだ」

「あ、俺は、依月の喜ぶ顔がみたいだけだよ?」

「帰る」

「え、ちょっと、依月。どうしたの、俺不愉快なこと言った?」

「うっさい、俺に構うな」

「依月、顔赤いよ、照れてる?」

「照れていない、ストーブに当たり過ぎただけだ」

「そっか。じゃあ、熱いなら、上着脱いでいいよ」

「何まじまじ見てんだ」

「俺も依月の困った顔見ていると、ゾクゾクするよ?」

「…………!」

俺は思いっきり、優平を殴ってしまった。つい、うっかりである。

「ごめん、優平」

「謝らないで、依月は何も悪くないだろ?」

「は? 今俺殴ったし」

暴力に出た、俺が、悪いだろうと、俺は言う。すると優平は「俺が駄目なだけだよ」なんて言いやがる。意味がわかんねぇよ、馬鹿野郎。

「俺、依月と一緒にいられるなら、何もいらないよ」

「重たい、その言葉は」

「ごめんごめん」



*****


生まれてきた意味なんてわかりません。
ですが、俺は今こうして愉快な奴と戯れているのがとても楽しく思えます。
きっとそれでいいんだと思います。理由を探すのではなく、今ある現実の上に理想をのせて日々生きて行けば、素敵な未来が見えるのかもしれない。

だなんて、そんなアホみたいな思考をしてしまう俺は、もう駄目なのでしょうか?



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