4.ポインセチア【1】




17年間、慎ましく、生きてきました。
ですが、俺は生まれてきた意味が何であるのかが、全くわかりません。



*****


「優平、どうして人は生まれたのだろう」

クリスマス当日。あえて俺は問題を起こさないことを選んだ。だって、今日みたいな特別な日には俺が浮かれて、何か問題を起こすから。
だから期待というよりは警戒している先生や生徒をほったらかしにして観察しているほうがよっぽど有意義なクリスマスドッキリだと俺は思いついたのだ。

だが、悪戯しないと、こうなんていうのか、暇だ。

というか事実、何をしでかしたら、俺が面白いかが思いつかなかっただけでもある。

とまぁ、魔がさしてしまった俺は、生徒会室の一番高価な椅子に座って、俺の押し付けた仕事をする優平に話しかける。優平は暇なら手伝えよこの馬鹿野郎だなんて一ミリも考えていませんっていう爽やかな顔で俺を見つめる。本当に、こいつのこういうところに俺は五カ月と少したっても、慣れない。

いっそ、どうにかして、こいつに嫌われて、憎しみのこもった視線でも送られるように頑張ってみようか。いや、優平は俺にとって掛け替えのない、雑用押し付け係だし、そういうのは…我慢。

「ていうか、お前疲れない?」

「え?」

「俺が押し付けた仕事だ」

「あ、これ? これなら気にしないで。俺がしたくてしていることだから」

満面の笑顔で反撃された俺はしばらく自分の目をこすった。俺には優平が眩し過ぎる。もう少し、キラキラと光る瞳を抑えてはくれないものだろうか。

「依月、また徹夜でもしたのか? 眠たいなら、眠ってていいよ。時間になったら起こしてあげるし。俺がちゃんと依月の身に危険が起きないか見張っててあげるし」

何を勘違いしたのか、優平は俺を心配そうな瞳で見つめる。綺麗な顔が不安そうに歪むのは好きだ。でも、優平の顔が歪むのを、俺は快く思えなくなっている。どうしてだろうか? もしかしたら、優平の困った顔を見るのに、飽きたのだろうか?

「まぁ、徹夜はしたけども、俺、別に眠くない。ただ、優平の顔面が眩しい」

「そう? よく言われる。でも、依月にそう言われたのは初めてで嬉しいな」

「喜ぶなよ、迷惑って言ってんだよ」

「そうか…」

それは悪かったな、と優平はあからさまに落ち込む。俺は胸がキュンとする。やばい、これはいいかもしれない!

て、何を考えているんだよ。俺。

いくら、本性が歪んでいても、家族や生徒会のメンツくらいには優しくしてやりたいのに。どうしてこんなにも誰かを傷つけることが楽しいんだ?

「やめられなくて、悪いとは思っている」

「い、依月?」

「優平が俺の言葉で落ち込むのがとても好きだ。なんかゾクゾクする」

「……」

「え?」

急に生徒会の仕事をするのをやめて、優平は立ちあがり、俺の目の前にやってくる。どうしたっていうんだろう。やっぱり俺が最低な奴だから、殴りにでも来たのだろうか?

でも、それはそれでいい。

優平みたいに真っ直ぐな奴が俺みたいな奴の傍にいるなんて、初めからおかしいことだったんだ。
五か月くらい、まぁ…よく付き合ってくれたものだと感謝しないと、俺。

「ねぇ、依月、ゾクゾクって言葉、俺以外にも使うの?」

「は?」

真剣な顔をして俺の頬に触れた優平の手に俺は気が回らないくらい、優平のその言葉に動揺した。

「厭らしい、響きがするから、やめてほしい」

「んで、俺がお前にそんなこと言われないといけなんだ!」

「俺さ、依月のこと好きだよって、言ったよね?」

「……諦めてくれって、俺は言ったよな?」

「言われたけども、そんな簡単じゃないんだよ?」

「知らねぇよ、んなこと!」

「まぁいいや。俺が好きで依月の傍にいるだけだし、ごめんね。依月の勝手に口出しをして」

「お、おう」

居心地の悪いまま、俺は離れて行く優平の手を見つめた。俺の任せた仕事のせいで、綺麗な手がインクまみれだった。

途端、俺は悲しくなる。

「優平は」

俺は優平のインクまみれになった手を掴んだ。

「どうして生まれてきたの?」

どんな理由があって俺のせいで手をインクまみれにしないといけなくなったのだろうか。見当もつかない。

「俺が生まれてきた理由? 考えたこともない」

一瞬驚いた顔をした優平だったが、俺の言葉には真剣に答えてくれた。

自分のことなのに考えたことがないと言った優平を見ていると、俺もそんなに深く考えなくてもいいような気持ちになるが、ちゃんと生まれてきた理由が欲しくて、俺は、やっぱり、自問自答を繰り返す。繰り返したって同じだって、わかっているのに、そんな事実を俺は認めたくない。

「そうか、俺は延々と考えて、でも思い当たらなくて、たまに焦ったりしているのにな」

「依月が?」



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