3.ベッセラ【番外編】



一年生の後期生徒会役員は、流されるまま就任した。たしか、書記だった。
二年生の前期生徒会役員も、流されるまま就任した。たしか、会計だった。

本当はどちらも面倒で引き受けたくなかった。でも、周りに押されて、断れなかった。しかたない、と思うことにした。

俺は諦めて作り笑いをしながら生徒会役員を一年間こなす。

もう充分だと嘆いていたが、二年生の後期生徒会役員は、自ら名乗り出た。
投票前演説で舞台に立った時、本当に緊張した。自分の意思をあんなにもはっきりと口にしたのは初めてだったかもしれない。
そう全ては現生徒会長に出会ったせいだ。

現生徒会長とは【甘味処 依月】のことである。

見た目は何処にでもいる無害な平凡だけども、本性は愉快犯の性格破綻者。哲学と人間観察、他人をからかうことが大好きな17歳。俺と同い年。
人の困った顔や泣き顔を見るためならば、徹夜を何回も繰り返し、ぶっ倒れたことも過去に…数回。で、嫌いなものは、自分の思い通りにならないこと、と、洋菓子。あ、和菓子は好きらしい。俺には違いがわからない。

……え?
ああ、どうしてそんな奴のために、俺が自ら生徒会役員になると名乗り出たかっていうと、簡単な話だ。惚れた。こいつのために何かしてやれるなら、してやりたいと思った。そばにいたいと願った。ただそれだけである。

今回の小話は、俺と依月が出会った頃のことにしようと作者は思っているらしい。ということで、時間のある人は付き合ってあげてほしい。ではでは……



*****


何とか教室から脱出して、一人になれたお昼休み。俺は立ち入り禁止の屋上に入ろうとしていた。規則は守るためにあるものだとは知っていたけども、この学園の理事長でもある父が『別に屋上に出てはいけないわけじゃないんだけども、立ち入り禁止にしているだけだ』とか言っていたから、俺は躊躇なく屋上に出た。七月の太陽は暑く、風は柔らかい。このままこの空間に溶けて消えてしまえたら、どんなに楽になれるだろうかと俺は自嘲した。

「誰?」

急に、後ろから声がして、振り返ると、何処にでもいそうな顔をした生徒がいた。これが、当時の依月だった。

「あ、なんだ、生徒会の人かぁ…」

依月は無邪気に笑って、俺を見上げた。迂闊にも可愛いと思ってしまったのは、たぶん依月が俺に対して真っ直ぐな瞳を向けていたからだと思う。
俺が、学園の理事長の息子だとか、そんなの、全く関係なく。

「あのさ、生徒会長ってどうやったら、なれるのか、知っている?」

依月は生徒会長になりたいと言った。

「え、生徒会長? 生徒会長は、生徒の過半数を超える承認と、生徒会役員を務めたことのある人からの紹介で、なれる」

「そんなにも、簡単なのか? あ、でも、簡単じゃない…俺、生徒会役員に知り合いがいない…しなぁ…」

ちらっと依月は俺を見つめては困った顔をした。俺はついつい情に流されて「俺でよかったら、紹介してあげるよ」だなんて言ってしまう。依月は「悪いよー」なんて可愛い子ぶった声を出していた。
が、完全な約束を交わした瞬間、依月は可愛い子ぶるのをやめて、毒を吐いた。

「ごめん、やっぱりいいや。お前、人の顔色見て生きているわけ?」

「え?」

「俺の顔色ばっかり見てさ、何なのマジで。馬鹿じゃないの?」

淡々と依月は言った。

「そんな生き方に満足しているのなら、突っ込んだこと言ってごめんなさいって感じだけど、疲れた顔しているんだから、やめたらいいと思う。続ける意味が俺にはわからない。と、いつも、舞台の上で、生徒会役員を名乗る、作り笑いのお前を見ていて、イライラしていた」

「……」

「そもそも、馬鹿げているって思わない? お前にしたら、今日初めて顔を合わせた俺に、こんなこと言われるって、本当に惨めだと思わない?」

「思わないよ」

「そうかい」

つまらない、と依月はぼやき、俺から目を逸らした。

「なんだか、嬉しいよ?」

「は!?」

正直に自分の気持ちを伝えたら、依月は意味がわからないという顔をした。

「生徒会長、本当になりたいの?」

「いや、なれるものなら、なりたいな。生徒会長っていろいろ権限あるじゃん。俺は俺の学園生活でそれを使って楽しみたいんだ。でもさ、権利があれば、義務もあるだろう。それが面倒だ。何処かに副会長として俺に好き勝手させてくれる人でもいれば、なろうかなって…いうかそれくらいの気持ちだったりして。悪いな」

「悪くはないと思う。俺が、副会長しようか?」

「なんで?」

依月はどうしてと繰り返した。俺にもそんなのわからない。

「お前、俺のなんなわけ? 俺に尽くして何になる? 自己満? だったら、是非、お互いのために手を組みましょう」

「ああ…」

馬鹿だな、俺。
依月と握手をしながら思った。

面倒事を押し付けられるの、自ら好んで引きうけるだなんて。
一体、俺はどうしたっていうんだろう。




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