2.サンダーソニア【1】
17年間、慎ましく、生きてきました。
ですが、俺は独占欲が何であるのかが、全くわかりません。
*****
「何が問題だって言うんだよ!」
優平の部屋の中で、俺は眉間にしわ寄せながら、ベットに座り込んだ。さっきから何をもめているかと言うと、つい最近、生徒会の買い出しで俺が優平にプレゼントした、そう、いつも優平の部屋にくると嫌でも目につくところに飾られている、女物のサンタ服のことになる。
「いいじゃん、俺が買ったんだし、お前、俺に着て欲しいって言ったじゃん」
「言ったけど、そうじゃないんだよ」
「じゃあ、どうなんだよ…ったく」
意味がわからないと俺はイライラする。優平は情けない面をして、もじもじと何度か指を動かして、一生懸命、俺を見つめる。そういうの可愛いから、やめてほしい。いや、優平が困って必死になる姿はいつ見ても楽しいものだが、最近はなんだか、見ていて、胸がキュッと詰まる感じがするんだよな。病気か?
「俺の前でだけ着て欲しいんだ」
「何それ、優平くん、それは誰が楽しんだよ」
「俺が楽しいよ?」
「じゃあ、俺がつまらん」
俺が女物のサンタ服を着たいのは、女装癖があるとかそういうのじゃなくて、単に、そう、みんなの落胆する顔が見たいんだ。きっと俺なんかが着ているのを見たら、嫌がるだろうなぁ。そんな想像をするとわくわくする。
どうせなら女の子に着てほしかったよ、とか言って、ここに女子は一人もいない、と、全寮制の男子高にいることを悔やんでもらいたい。
「俺は優平を楽しませるつもりなんてないし、みんなに衝撃を与えて遊びたいんだ。いいだろ、な。クリスマスの日は弾けてもいい日だって!」
「……そうだけど、俺は、俺以外の誰かに、見せたくない」
「は?」
「依月、依月は知らないかもしれないけども、依月はモテるよ?」
「俺が? んな、わけねぇだろ。優平、お前も変なこと言うようになってきたな。本当、本当、頭大丈夫か?」
「大丈夫だよ」
真剣な顔をしてじっと俺の目を見るから、俺はどうしたらいいのかわからなくなりそうになって、ただ早口に「とりあえず、クリスマスにはサンタ服貸せ」と呟く。
すると優平はわからず屋、と言って、ベッドに座っている俺の方へと近づいてきて、そのまま俺をベッドに押し倒した。途端、俺のことを好きだと言った優平の声を思い出す。馬鹿か、俺、どうしてこんなタイミングでそんなことを思い出さないといけなんだ!
「離れろ、これ以上、男に近づかれる趣味はない」
「依月、それは俺もないよ」
困ったように笑う、美形に、俺は開いた口がふさがらなくなってしまった。
こいつ、変だ。男に近づく趣味はない癖に、今、俺に近づいている。俺が男じゃないとでも思っているのか? だったら、優平は俺が男だとわかれば、どんな顔をするんだろう。
て、いうか…
「真面目に、これ以上、近づかれるの、無理なんで、離れて下さい」
段々と距離が縮まる優平に、俺は、あえて他人行儀に言い放つ。
優平はしばらくポカンとした顔をした後に、寂しそうに、ごめん、と言って、俺と距離をとってくれた。
「…………」
でも、なんだろう、なんか、気まずい空気になって…。
俺は息苦しさを感じる。
意味がわからない。
こんな馬鹿に対して、どうして?
俺は、
人を振りまわすのは好きだ。
でも、人に振りまわされるなんて死んでもごめんだ。
「ていうか、サンタ服、せっかく買ったんだし、展示してるだけじゃもったいないじゃん。貸してよ。とりあえず、今日は、リクエスト通り、優平にだけ見せるし!」
百聞は一見に如かず。
きっと俺の残念なサンタ服を見たら、優平は、俺がサンタ服を着て、全校生徒にいきなりドッキリスピーチをすること、許してくれるだろう。ていうか、今、気付いた。別に、こいつに買ってやった、サンタ服じゃなくても、また買いにいくなり通販なりすればいいんじゃないかって。それなら、もうすこし値は張るだろうが、もっと凝った可愛いのがあるはずだし、その方が、ギャップがあってみんな凹んでくれると思う。気持ち悪がってもらえると思う。
「ていうか、俺、やっぱりいいや。それは優平にプレゼントしたものだし、展示するのは優平の勝手だ。俺は、自前でもっと破廉恥なのを購入して、着るわ! せっかくのクリスマスなのに見たくないものを見せられた生徒達の顔をさ、想像すると、背筋が震えるよ、楽しみだ!」
あはは、と俺は高らかに笑う。自分でもわかっている。俺は少々、壊れている。
「じゃ、ということで、しつこくサンタ服貸せって言ってすまん」
後は自分でどうにかするわ、と俺は優平のベッドから立ち上がる。そのまま、ここから退室しようとすれば、思いっきり、手を引かれて、抱きしめれそうになった。が、寸前で振り払う。
「俺に触るな!」
優平の顔も見ずに俺はそれだけ言い放つと、ダッシュで自分の部屋に戻る。
はっきり言って迷惑している。
意味がわからない。
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