1.イノモトソウ【過去拍手】



17年間、慎ましく、生きてきました。
ですが、俺はクリスマスが何であるのかが、全くわかりません。



*****


「人間ってさ、本当に浅はかで、踏みねじりたくなるね」

生徒会の用事で、久しぶりに学園の外に出てみたら、町はクリスマス仕様。
しかもすれ違う人が「クリスマスプレゼントは何がいい?」だなんて言ってやがる。何それ、馬鹿なの?

「だいたいさ、クリスマスって、キリスト様の誕生日だろ?」

おかしいよな、と俺は一緒に買い出しに来た副会長・優平に疑問をぶつける。
優平は急に同意を求められたことに驚いたのか、少しビクッと飛び跳ねた。
なんだよ、俺がまるで苛めているみたいじゃないか。感じ悪いなぁ。

「て、いうかさ、俺は、クリスマスプレゼントの意味がわからん。もしも仮にクリスマスプレゼントを贈るとしたら、それは誕生日であるキリスト本人になるわけだろ? なんで全く関係ない第三者に渡すんだよ。それにクリスマスパーティーの意味もわからん。誕生日の主役なしでパーティーだぞ、あの状態は!」

やべぇ、なんかその光景がつぼだ。
俺は公共の場だということを忘れてクスクスと笑った。そんな俺の隣を通り過ぎた子どもが、変なものを見るような目で見てきてさ、母親は顔を歪めて子どもの手を引いてさっさと何処かへ行きたそうにしている。

「依月」

「え、何?」

笑い過ぎて涙目になりながら、俺は優平の方へと振り向く。

「クリスマスの意味はわからないけど、弾けていい日なんだと思うよ?」

「優平、それは本当か?」

「俺は小さい頃からそう思っている。だって、みんな、馬鹿みたいにはしゃいでいるじゃん。きっと楽しむための口実みたいなものじゃないかな」

そうか、クリスマスは口実なんだ。クリスマスだからって言って、ツリーを飾ってみたり、赤服を着たり、チキン食べたりケーキ食べたりするんだ。パーティーもクリスマスだから理由をつけて集まって騒ぐ。ああ、なるほど!

「じゃあ、俺、今年はクリスマスらしいことしようかな?」

かな? なんて言っておきながら、俺はすでに全校生徒を困らせることを考えだしている。きっと俺はそのために生徒会長の座に君臨しているんだ。そう思う。

「……でもさ、優平。俺、クリスマス関係なく問題起こしたりしてんじゃん。今さら、クリスマスにこだわらなくてもいいかもしんない」

「依月、クリスマスこそ、気を抜いた生徒に愉快を届けないと!」

「お前…なんだ、よ、気持ち悪い」

いつも俺が悪戯や愛のある嫌がらせを生徒達にすると必死になって止めるくせに。どうして、今日はこんなにも俺の背中を押してくるんだ?
いや、クリスマスが特別な日だからか、やっぱり。

て、優平、何を見ているんだよ。どういう趣味だよ。
女物のサンタ服をチラチラと。

「んだよ、欲しいなら、堂々と買ってこいよ!」

ニタニタと笑いながら、俺は困っている優平の顔を見つめる。
優平の困っている顔は特に好きだ。澄ましていたら、ただの美形だからな。
こうして崩れるとなんか愛おしい。

「いや…やっぱり、いいよ」

顔を赤くして、はにかむ。通行人の女性が優平に見とれる。俺はそれが面白くなくて、大きな声で叫んだ。

「店員さーん! この人、サンタ服が欲しいみたいですよ! 早く接客してあげてくださーい。あ、サイズって、この人が着れる大きさってないですよね?」

「すみません、XLはございますが…女性用のサイズになりますので、お兄さんにはちょっと小さいかと…思いますが…」

商売上手な店員はどうしましょうと困った顔をして見せる。面白い。
俺は「少々、小さくても、着ちゃうくらい、サンタ服欲しいみたいだし、XLでいいです」と実費でお会計した。

「ほら、どうぞ、優平くん」

寄り道してしまった店からでると、俺は優平にサンタ服の入った紙袋を差し出した。

「…い、依月?」

「いつも世話になっているし、早いけど、クリスマスプレゼントだ」

「俺に、そんな趣味はない…」

「はぁ?」

急に何を言い出すんだと、俺は眉をしかめた。

「お前、これ、着せたい奴がいたんだろ? XLだし、お前より一回り小柄な可愛い子なら着れるって、安心して使えよ。て、あー…しまった。下着がトランクスだったら、スカートの丈から見えて色気なくすか?」

「依月なら、それでも」

「は? 俺が何だって?」

恐ろしく真剣な瞳で俺の事を見つめる優平に、俺は焦る。むかつく、どうして俺がこんなヘタレに翻弄されないといけないんだ!

「似合うと思う、パンツ見えても」

「だから、何の話を」

「俺は依月に、似合うな…と思って、見ていた、それ」

たじたじと優平くんが指差した、俺が手に持っているサンタ服の紙袋。
俺は血の気が引いていく音が聞こえた気がした。

「俺、依月のことが、好きなんだよ」

「へ、へぇー。そう、そうなんだ…あはは」

「うん」

「冗談キツイ。こんな俺の何処が好きだって言うんだよ。信じられるわけが、ないじゃん。俺、俺みたいな他人がいたら、心底、嫌うな。自己中だし、人の困った顔や泣き顔大好きだし、最低じゃん」

「それでも」

「え?」

「それでも、好き」

「…………」

「信じてもらえるまで、振り向いてもらえるまで、俺はいくらでも待つから」

まるで壊れ物に触るように優しく、そっと、優平は俺の紙袋を持っている方の手を握った。やめろ、俺にそんな趣味はない。

「待たれても、俺はホモじゃない。男同士の恋には寛大にしているが、俺は自分がそうなることはないと自信を持って言える」

「依月。俺もホモじゃないよ。依月は特別なんだ…。だから、もしかしたら、依月も俺のこと特別だって思う日が…」

「来るわけないだろ!」

「俺、頑張るし」

「頑張らなくていい! ていうか、どうせ頑張るなら、諦めてくれ。ほら、生徒会の買い出し、さっさとして帰らないと怒られるぞ、顧問のあいつに!」

「……わかったよ、行こう」

「何、不服な顔をしてんだよ、可愛いな」

「本当、俺が落ち込むと喜ぶよな、依月は……参るよ…」



*****


17年間、慎ましく、好き勝手に問題を起こしながら、人を泣かせて、生きてきました。
ですが、俺は優平の言う好きが何であるのかが、全くわかりません。


信じていないけど、神様。

何処かにいるとしたら、お願いです。





一生、このままで、居させて下さい。




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