6.アリウム【2】




特別なものは持たない主義だ。特別なものは、足かせでしかない。俺は俺のために好き勝手生きたい。

だから、いらない。

俺は、愉快な悪戯を繰り返しつつ、それでも決して【他人と深く関わろう】だなんて思っていないから。

「……嫌だな」

何処で間違えたんだろう。どうして、振り払っても、振り払っても、あいつは俺の目の前に現れては、微笑むのだろう。離れて行かないのだろう。

「……………」

馬鹿らしい。俺が何を悩む必要があるんだっていうんだ。もう、いいや。俺は俺の好きなようにするし、あいつは……優平は、優平の好きなように俺に絡んできているだけだ。何も深く考えることなんてない。
そうだ。

「どうせ、俺には、何にもないし」

自分自身の中身が空っぽなのを、俺が一番よく知っている。だから、何かを詰めようと、図書館に新刊が入る度、全て目を通していた。感情が乏しくても、知識さえ入れたら、完璧になれる気がしていたんだ。悪戯だってそう。何の取り柄もない俺が、強くその人の中にインプットされる。それが堪らなく幸せだった。
生徒会長になったのも、気まぐれだ。肩書きをもらえば、何かが変わる気がした。でも何も変わらない。当たり前のことと言えば当たり前のことだが。

「依月」

「え?」

一人っきりになろうとして閉めたはずの扉が開く。そこには優平がいる。何をしに来たんだ。俺は、下足室で振り払っただろう。

「どうしたの?」

「どうもしないけど」

心配そうに聞く優平に俺は淡々と答えた。図星をさされたのが気に食わなかった。優平なんかに、俺の心情を知られたくない。

「どうもしないのに、そんな顔、しているの?」

「してねぇーし」

「しているよ」

「うっさい。どっかに行ってくれ」

「嫌だよ」

「なんでだよ」

「俺が、此処に居たいから」

「我儘な奴だな」

「依月と一緒だろ?」

「違う、俺とお前は違う」

「何処が?」

「お前は俺と違って、ちゃんとしているじゃないか?」

「依月はしていないの?」

「しているように見える?」

「うん」

「何処が?」

「面倒くさがりなのに、頑張っているところとか」

「俺がいつ、頑張ったというんだ」

「愉快犯しようとしているところとか?」

「そんなの頑張ったって褒められることでもなんでもない」

「でも、依月は依月だよ」

「は?」

「上手に言えないけど、依月は依月だから」

「意味、わからん」

俺は優平の馬鹿に付き合うのをやめて本を手に取った。優平はそんな俺をじっと見つめて何も言わない。

「……優平、お前は、どうして俺のこと好きだって言いやがった?」

「え?」

「理由だよ、理由。俺ってさ、性格悪いし、何にも特別なもの持っていないのに」

「ごめん。ぶっちゃけ、顔が好き」

「は!?」

「だから、ごめんって。絶対に依月怒るってわかっていたから、言わなかった」

「ていうか、俺、何処にでもいるような顔しているけど」

「あ、違う。顔じゃなくて、仕草とか表情とか。そう言ったのが、とても可愛いんだ」

「気持ちわりぃ」

「依月が、聞いておいて…」

「お前の答えが馬鹿みたいで意味わからないからだ」

「でも、顔は赤いよ」

「違う、さっき怒ったから、まだ血が引かないんだ」

「ふぅん」

「なんか文句でもあるのかよ!」

「ちっとも全然」

かなり、イラっとする態度で優平は首を横に振った。
でも、そのイラっが心地良かった俺は末期かもしれない。

「なぁ、優平。飽き症なのってどうしたら治ると思う?」

「飽きない何かが見つかれば、いいんじゃないかな?」

「そうか……」



*****


たくさんの本を読んで、たくさんの人を観察して、俺は知っているつもりだ。恋愛がどれほど愚かで馬鹿げているか。

それに俺は飽き症だ。

ただでさえ、恋愛感情は二年で消えるのが一般的だとされているのだから、俺なんかきっと明日には消えているかもしれない。
ほんの少し、ほんの少しだけ、俺のことを好きだと付きまとう優平に対して、生温かい感情を持ち始めている俺は、自ら、その想いに蓋をする。

きっと初恋。
でも、きっとすぐに忘れる。

俺は移り気の多い人間。



だから、ごめんね、優平。






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