37
「嘘じゃない。杏梨のところに行く前に、ナツに相談していた。ナツが、杏梨のこと、大切にしてやれっていうから、俺は、杏梨の傍にいただけだ」
俺の意思じゃない、とまではミハルは言わなかったが、もうそういう風にしか聞き取れない言い方だと思った。
「ごめん、杏梨。俺は杏梨のことは大切に思っているけど、俺、もう、守っていかないといけない恋人がいるんだ。だから」
ミハルの涙が俺の頭に落ちる。
俺は、辛いなら、杏梨ちゃんのこと、無理をして突き放さなくていいよ、と言いたくなった。
ミハルが苦しむくらいなら、俺が辛い方が、まだ、いい。
「ミハル、杏梨ちゃんのこと…」
「ナツ! もういい!」
「え?」
「決めたんだ。ナツのことだけ、大切にしていくって、俺、決めたんだ」
……俺、胸がキュッてなって潰れてしまいそうです。
「ね、どうして、そいつなの。ミハル。なんで、そんな男なの。可愛くもないし、結婚もできないし、子どもも産めないし、なんで」
杏梨ちゃんは可愛い声を出すのをやめて、低い声を出す。
「私だったら、ミハルのこと幸せにできるよ、ちゃんと」
「そうかもしれない。でも、俺からナツをとったら、もう、幸せじゃないよ俺」
- 38 -
[*前] | [次#]
目次に戻る→
以下はナノ様の広告になります。