36
ずっとこのままでいたい。
ミハルに抱きしめられたら、そう思ってしまう。
でも、杏梨ちゃんの声がして俺は慌ててミハルから離れようとする。
なのに、ミハルは俺を抱きしめる力を緩めるどころか、強く俺が離れないように抱き抱える。
「ミハル、どうしてきてくれなかったの?」
杏梨ちゃんは俺の聞いたこともない悲しそうな声で言う。
ああ、本当に、杏梨ちゃんはミハルのことが好きなんだなと改めて感じた。
「すぐにきてほしいって私言ったよね」
「え?」
杏梨ちゃんはすぐにきてほしいって言っていたのか?
だったら、どうしてミハル、こんなことろに来たんだよ。
「杏梨、ごめん。どうしても、ナツに会わないといけない用事があったんだ」
ミハルは俺を抱きしめたまま、背中越しに、杏梨ちゃんの言葉に答える。
杏梨ちゃんは、きっと泣き出しそうな顔をしている。
ミハルの腕の中で、俺の視界は遮られて何も見えないけど、そう思った。
「どうして? 今までずっと私のこと優先してくれていたのに…」
「してない。俺は、ずっと、ずっと、ナツのことを優先していた」
「え?」
「嘘……」
- 37 -
[*前] | [次#]
目次に戻る→
以下はナノ様の広告になります。