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「俺、たまに考えていたんだ。もしも、俺が倒れた時、杏梨ちゃんの具合が悪かったら、俺は後回しにされるのだろうかと」
「どうして、俺はナツの傍に行く。ナツが杏梨を優先しろっていうなら、杏梨の傍にいるかもしれないけど」
「……俺は、いつだって、何があったって、ミハルにそばに居て欲しかった」
いつだって、そうだった。
杏梨ちゃんを優先していいと言いながら、俺の事を「それでも」とか言って、優先して欲しかった。
俺は優しい振りをして、物わかりの良い振りをして、最低で。
そんな自分自身をミハルに知られたくなくて、強がって。
それで辛くなって、こうして、今さら、傷をえぐるように、ミハルに話す。
俺は悪くなくて、ミハルが悪いかのような言い方で。
「俺がいいって言っても、ミハルは、強引に俺の手を引っ張りに来てほしかった。一緒に居て欲しかった!」
「……俺は、ナツに、そう言って欲しかった」
「え?」
「俺が杏梨に会いに行くと言っても、そうやって行かないでって言って欲しかった。駄々をこねて欲しかった。俺に傍に居て欲しいって言って欲しかった!」
「知らない、そんなこと、言われても、俺っ……」
「俺だって、俺だって、知らない」
ぐちゃぐちゃになるほど叫んで、顔を歪めて、泣いて。
抱きあって、二人、微笑んだ。
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