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「どうして、そんなこと言うの?」
ミハルは悲しそうな顔をして俺を見つめた。
俺はそのミハルの表情に、飲み込まれてしまいそうになった。
「だって、ミハルは俺よりも、杏梨ちゃんのこと優先してたし」
記念日だって、デートの約束をしていた日だって、杏梨ちゃんが体調が悪いと聞けば、杏梨ちゃんのことを優先していた。
「ナツ、俺は、杏梨のこと、優先したことなんてないよ」
「じゃあ、なんで、記念日の日とかデートの日とか……」
俺じゃなくて杏梨ちゃんの傍に、居たの?
「俺、本当はナツと一緒にいたかった。でも、ナツは俺がいなくても平気だから、杏梨と一緒にいろって言ったんだ!」
「あ……」
そう言われてみれば、必ず杏梨ちゃんが身体を壊したら、ミハルは俺に連絡をいれて、俺が杏梨ちゃんの傍にいてやれ、と言っていた。
ミハルが俺と一緒にいたいと思っていてくれたことなんて知りもしないで。
まるで俺だけが傷ついているような気持ちになって。
「ナツは俺が杏梨と一緒にいればいいと思っているのか?」
「思いたくない、けど、そうであった方がいいと思っている」
俺なんかといるよりも、よっぽどその方が自然で、違和感がなくていいと思うよ。そう言ったら、思いっきり、ミハルに殴られた。
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