９
「知っているわよ、そんなこと」
「え？」
「だから、協力してほしいの。ミハルのこと、貴方よりも私の方が幸せにしてあげられるから、だから、別れて欲しい」
「…………」
「あれ、何その態度。別れたくないってすぐに言えないわけ？」
眉間にしわを寄せて、杏梨ちゃんは言う。
「それ程度の気持ちで付き合っているなら、別れて！」
「……ごめん」
「ごめんじゃないわよ、別れてくれたら、それでいい。だいたいさ、あんたなんか可愛くもなんともないじゃないの。だから、優しいミハルはほっとけないだけだってわかってよね。自惚れるなよ！」
「そうかもしれない。でも俺が、ミハルと一緒にいたいから、別れない」
震える声で俺は言った。
精一杯の本音。
でも心のどこかでは、やっぱり自惚れているのかなって怖くて仕方ない。
ミハルみたいな何でもできて顔もスタイルも整っている人が、俺を好きになる理由も付き合う意味もわからないから。
変な同情か何かなのかなって……
「本当に、そういうの、うざい」と杏梨ちゃんに言われた。
その通りだなって俺は思った。
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