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「お待たせいたしました」
しらじらしく黒田は俺に珈琲を差し出した。
「何、いまさら、他人ぶってんだよ」
いつも立ち寄る喫茶店の俺の定位置にて、いつも俺に愛をささやいていた馬鹿を前にして、俺は笑った。
「だって、愛しくて抱きついてしまいそうになるんですもん。仕事中は恋愛禁止ってことになっているんですよ、ここ」
だから秘密です。なんて奴は口元に人差し指を立てる。だがな、後ろには店長がいる。
「何が、恋愛禁止だ。お前、いつから、白昼堂々、男に好きだって叫びながら仕事してたって言うんだ。今さらだろ。べつに俺は構わない。イチャつけばいいんじゃない。お前らの絡み見るために通っているような客も増えたしな」
「店長…。それって、つまり…」
黒田は嬉しそうに店長の方を向いた。だが、店長はすぐにそんな奴の頭をお盆で叩いた。
「健全な範囲でって言ったんだ」
「……残念」
「く、黒田、何が、残念なんだよ!」
「えー。だって、だって、堂々とイチャついていってことは…って痛い、痛いよ、店長叩かないで、叩いたら、東條さん馬鹿が悪化する!」
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