「見たぞ、昨日、女と一緒に町を歩いているのを」

喫茶店の定位置に腰をかけて、珈琲が出てくると奴にそう言ってやった。

「……昨日ですか?」

「ああ、昨日の夕方だ。とても綺麗な子じゃないか!」

俺は笑った。皮肉まみれに笑った。
だってそうだろう。愛だの何だの言って、でもさ、結局そんなものだったんだ。ただのまやかしである。何カ月も懲りずに俺に「好き」だとか言っていたくせに、だ。本当に笑えるし。

「お前、俺に付きまとっていたから、よっぽど変な奴だと思っていたけどさ、よかったじゃん。ちゃんと彼女が出来てさ!」

「そんなこと言わないでください!」

「!」

声を荒げたところなんて見たこともない奴が、真剣な顔をして怒鳴った。俺はうかつにも驚いて黙ってしまう。
黙ってしまうと、空しさがこみ上げてきた。

「図星なんだ…」

俺はそれだけ言うと、机の上にお金を置いて喫茶店を後にした。
もう顔も見たくないと思った。此処へは二度と来ないだろうと思った。

俺は、お前に、否定してほしかったんだ。
馬鹿である。
たった数カ月「好きだ」と懐かれた程度で俺は…




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