8
「あの、その、お兄さんって呼んだ方が…」
いいのかなって思って聞いた。だって俺のこと弟だと先輩が思ってくれるのだから、俺だって先輩のことはお兄さんと思いたい。
少し胸が痛む。
なんでなんだろう。
「いや、いいや。俺、名前で呼んで欲しい」
呼んでくれたことなかったよね、と先輩は首を傾げた。
「総司って呼んで?」
「…!」
「嫌かな?」
「いいい、嫌だとか、そんなのじゃなくて、その、あの…っ」
俺はわたわたと瞳を動かす。落ち着かない。落ち着けない。
身体が宙に浮いたみたいに、ふわふわする。
「………ヒロ?」
「あ、の、その……。そう、じ、さん」
「もう一回」
「総司さん!」
精一杯、呼んだ名前に、先輩、総司さんは愛おしそうにほほ笑んだ。
あれ、胸の痛みなくなって、今度は、泣き出しそうだ。俺。
- 41 -
[*前] | [次#]
目次に戻る→
以下はナノ様の広告になります。