日下部新




=日下部新side=


俺は水城先輩が大好きだ。好きで好きでたまらない。
だけど、俺が水城先輩に相手にしてもらえることなんてないんだとわかっている。先輩は、何処かで他人と線を引いている人だからだ。
きっと、俺が好きだって近づいたら、すごい勢いで拒否されるだろう。

と、物わかりのいい俺は、無駄な抵抗はやめて、ファンクラブを作った。

自分が先輩の特別になれなくてもいい。でも、誰も先輩の特別になることはないように。また、好きだけど、一歩を踏み出さないという約束をつけることで、少しだけ先輩に構ってもらえるという利点もファンクラブにはあったりする。
割り切った関係というものだ。
先輩も優しいから、それならと甘く見てくれる。
別に名前なんて覚えてもらわなくてもいい。
俺たちみたいなファンが存在していると、知っていてくれるだけでいい。
だなんて、俺もそれなりに先輩の想いを消化しようとしていた時だ。

事件は起こった。
俺たち、ファンクラブのみんなは「平凡事件」と呼んでいる事件なんだが…。

「隊長! あの忌々しい平凡事件の奴なのですが!」

そういって会員の一人が放課後になるとすぐさま下校中の俺の前に走り込んできた。平凡事件の奴とは、加賀美ヒロという俺の同級生だ。
特に変わったところもない…淡々とした奴だ。少し天然の。

「加賀美がどうかしたのか?」

「どうもこうもないですよ、お弁当、先輩に届けてもらっていたと聞きました」

「それなら、もう決着ついたから。あ、ちなみに、俺がそれとなく、加賀美にかまをかけたけども、加賀美はいつも通りだった。浮かれている様子もなかった。特に何かあったわけじゃないと思う。思えないけどな」




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