涙腺が崩壊したかと思った。
竜北さんの方を見ると、どうやら彼も涙腺が狂っているのだろう。

「西野、これをただのエロだと言いやがった!」
許せない!と竜北さんは叫んだ。俺も「全くです!」と後に続いた。
朝、西野さんがただのエロ本だ。とか言って俺たちに手渡した本を、三時の休憩時間に俺たちは読み始めた。もちろん、三時の休憩時間が終わったら読むのを止めるつもりはあった。だけど、俺たちは手を止めることも、いや、今ここが何処なのかも忘れて読みふけった。そして、涙がとまらなくなり、今に至るわけだ。
「…ぅう、俺、こんなにも、澄んだ気持ち、久しぶり…」
「俺もです」
「な、なんで、これさ、分類的にはエロ本なのに、こんなにもピュアで繊細で…っ」
「もう、本当、切なすぎました。123ページの『どうせ、君は、信じてはくれないんだろ?』ってセリフやばくないですか?」
「そこ、駄目だろ。俺、そこから、涙腺が狂った。な、高良、カズって、最初は嫌な奴なのに、さ、それは全部『愛している』の結晶だったんだな」
「竜北さん、そこなんですよ、そこ! これ、絶対に二度読みしたら、カズの一途さに終始涙とまりませんよ! なんで、俺、最後までカズの痛みを気付いてやれなかったのでしょう…」
「俺だってそれには悔やんでも悔やみきれん。もう一回、これは」

読むべきですね?

俺たちは無言の確認を取ると、言葉を交わすのをやめて再び西野さんの素敵物語を読み始めた。


仕事なんて、言葉も、記憶もその時、俺たちにはなかった。
ただカズの一途さに、号泣しているだけだった。




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