「よかった、いつもの西野さんだ」
「……痛いのがよかったのか?」
俺は上条のホッとしたような声に恐る恐る尋ねる。すると上条は「何をどうしたらそうなんるんですか?」とさらに笑いだした。意味がわからない。
「ただ俺は西野さんの顔色が戻ってよかったなって思ったんですよ。さっきまで蒼白でしたよ?」
「…そうか?」
「はい」
そんなこんなで僕は上条くんと一緒に通勤した。自分の職場の机についたのは、仕事の始まるじつに1時間も前だけど。
「あ、上条くんはどうして今日は朝から早いの?」
「…なんとなく目が覚めたんです」
「そうなんだ。実は僕もなんだよー」
変に突っ込まれる前に自分からそう言っておいた。聞かれたところで本当のことなんて怖くて言えないしね。
「へぇ…西野さん、俺に詮索されたくないことでもあるんですか?」
「え?」
「基本的に西野さんは自分のことを話さないのに、今日は言い訳がましく、俺に情報を下さったから」
「………はっ、馬鹿じゃねぇ」
「やっぱり馬鹿なんですかね、俺」
「しっ知るかよ、俺が!」
「あの…ずっと思っていたんですが、西野さんって…僕って言ったり俺って言ったりしますが、どうしてなんですか?」
「気分のムラ」
いちいち質問してくる上条にめんどくさくなって、淡泊に答えてやった。それに、特に意味なんてない。ただ口調が悪くなると、僕から俺になっている。僕としては落ち着いて優しい自分でいたいからニアンスが柔らかい僕を使うように心がけているんだけども。




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