「あの…これからちょっとあの出版社にお詫びしてきます」
お昼になると西野さんはそう言って早退した。ずっと逃げ回っていたけど、ちゃんと話合いをすると腹をくくったらしい。
だけど、俺はちょっと不思議に思っていることがあった。答えなんて俺には到底わからないことだろうけども。

西野さん、どうしてもエロを書きたくないって言っているのに、どうしてエロしか書けなくなったんだろう。

理由を、わからないなりに考えても、やっぱり俺の頭が混乱しただけだった。諦めよう…。そう、俺が溜息をついた時、竜北さんが「説明するな」と西野さんの机に座わりこんだ。
「高良は、読み専門だから、西野の話に一括性の無さを感じてしまったかもしれないけど、ただ不安なだけだったんだ。新しいものを作り出すっていうのは受け入れてもらえるかなって、またはさ今までの自分との違いに否定されたりしないかなって、上手くいくのかなって、いろいろと気持ちは巡る。だから、逃げ出したくなる。自分にはそんなことができないと否定したくなる。だけど、本当は嬉しんだよ。それがとってもやっかいだ」
「嬉しいことがやっかいなんですか?」
「ああ、嬉しいともっと嬉しくなりたいと思うだろう。期待されたら、こたえたくなるだろ。でも自分にはできないって決めつけているんだから、続きを期待してとか面白かったとか言われたら、複雑なんだ」
「そう…ですか…」
俺には難しくてよくわからない話。そう、片付けたくないのに、俺はそれでいいんだと投げてしまいそうになる。
「でも、あいつは書きたいと願っていると思う。両立したいって願っていたはずなんだ。今までのヨウも大切だけど、これからの新しいエロ作家の自分も大切にしたいだろうし。本当は同一人物だって言いたいだろうけど、それは…憶病にはもう少し時間がかかるかな?」
「え、じゃあ、西野さん、プロになるんですか?」
俺は前のめりになった。すると竜北さんは高らかに笑った。
「さぁて、どうだろうな。ま、どっちにしても、西野の作品は読める!」
「なら、一安心です」




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