第六話


=竜北side=

誰もが崩れそうな結晶の中で生きているんだと、気がついたのはいつのことだっただろうか。あたり前だと思ってないがしろにしていた俺の日常はいとも簡単に姿を変えてしまった。この世に絶対なんてないと、思い知らされた。

幼い頃は、とても裕福だった。
父は気が弱いのが欠点だけど優しくて、母は気が強いのがたまに怖いけど頼もしくて、一見正反対な二人だったけど夫婦仲がとてもよくて、二人とも俺のことをとても愛してくれた。授業参観にも仕事を休んで来てくれたし、運動会なんか俺よりも父さんと母さんが気合を入れていた。くすぐったくて…でも、それが特別なことだなんて思いもしなかった。友達は…いなかった。でも、父さんと母さんが居てくれたら怖いものなんてないし、ちっとも寂しいなんて思わなかった。

小学四年生になった時、父が交通事故で病院に運ばれた。運が悪く頭を強く打ってしまっていて、そう、長くないのだと告げられた。母さんはその瞬間ひどく泣き崩れて、しまった。俺は先生の言葉の意味が理解できなかった。だって、俺の父さんは気が弱いのが欠点だけど優しくて、俺が「父さん」と呼んだら、ニコニコ笑って俺の頭をなでてくれたのに…。どんなに呼んでもピクリともしなくて、ただそこで人工呼吸器をつけているだけだったから。これは何かの間違いで、俺の父さんはまだ職場で仕事をしているんだと思った。目の前にいるケガ人は俺の知らない人だって思った。

小学五年生になった時、母は仕事に忙しくなって俺の授業参観も運動会も来てくれなくなった。つまらない。仕事が忙しいと言って俺に構ってくれなくなった。ある朝、俺は学校に行きたくないと言った。すると母は「私を困らせないで」といつかのように泣き崩れてしまった。俺の知っている母さんじゃない。俺の知っている母さんは気が強いのがたまに怖いけど頼もしくて、そんな弱々しくなかった。いつだって俺の味方で、頼れる人だったのに…。もう、俺を守ってくれることはなく、もしかしたら、俺がこの人を支えていかないといけないのかと思うと怖くて、俺は現実から目を逸らした。

もう少し、俺が理解出来たら何か違った未来があったんじゃないかって、今も考える。




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