竜北さんの言い分の10分の1もわからず、俺が首を傾げていたら、竜北さんは「わからない方がいいよ」と言ってくれた。なんだ、わからなくてもいいのか。俺は単純だからそうすぐに気持ちを切り替える。と、同時に携帯の着信音が響いた。
「……うわ、母さんだ…」
携帯のディスプレイを見て竜北さんは溜息をつく。

「もしもし、あ、うん。今、会社だよ。うん。うん。あー、わかった。ううん。気にしないで」
じゃあね、ばいばいと竜北さんはとても楽しそうに言った。
でも、その顔はあまりにも強張っている。
見ている俺まで悲しくなってしまう。

「東、なんて顔、してんだよ?」
「…はい?」
いつの間にか電話を終えた竜北さんが俺の近くまで来ると、俺の頬に触れて辛そうな顔をした。俺…どんな顔をしていたんだろう。
「っわり、つい」
「え…?」
急に竜北さんは俺から手を引くと、曖昧に笑った。

「ちょっと人肌が恋しくなってしまったんだ…」
冗談めかしてそう言って竜北さんはそろそろ帰らないとな、と荷物をまとめ始めた。気がつけばもう西野さんが帰ってから1時間も立っている。俺も帰る用意をしないと…

「竜北さん。この同人誌まだ借りていてもいいですか?」
俺は竜北さんが朝、俺に貸してくれた同人誌の塊を手にとって聞いた。すると竜北さんは「え、いいよ。俺、後同じの二冊もっているし、よかったら東にあげるよ」なんてさも当たり前かのように言う。
「じゃあ、遠慮しませんよ?」




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