「じゃあ、お疲れさまです。僕は他にも用事があるので、お先します」
就業を知らせるチャイムが鳴ると西野さんは机に広げていた大量のものをいつの間にか鞄にまとめ上げて、笑顔で消えていった。俺、お疲れ様ですって返事できなかった。
「東、何落ち込んでんだよ? 西野が返事を聞かずに帰ったんだから、気にすることないよ。したってあの状態じゃ、聞こえてないって」
「……ですが、俺はちゃんと返事をしたかったです」
「なぁ、東。変なこと聞いてもいいか?」
「はい?」
急にどうしたんだろうと俺は西野さんが去った扉から、竜北さんの方へと視線を移す。
「東はただ腐男子なだけだよな?」
「え…?」
どういう意味かわからなくて俺は首を傾げた。すると竜北さんは「ならいいんだ」と一人で納得してしまった。
「あのどういう意味だったんですか?」
「西野って可愛いと思うだろ?」
「はいとても可愛い人ですよね!」
見ていて癒されるんだよな。なんか、二次元みたいで。
「なぁ、東は西野をどうこうしたいって思わないだろ?」
「どうこうしたいって…いうのは」
「平たく言うと、独占したい困らせたい自分色に染めたいってこと」
「俺が、西野さんを…。それはないです。そんなの嫌です。俺は西野さんが小説を、作る時間が減るの嫌で、俺なんかの感性で西野さんの感性が薄れちゃうのも嫌です」
「ああーなるほど」
竜北さんは何かに納得したかのように呟いた。
「だから、西野はお前のこと気に入ってんだ…」
「?」
「ああ、西野、な。ああ見えて我が道を行く奴だから、誰かに干渉されたり、意見されるのがあまり好きじゃないんだよ。そのくせ、誰かに認めてもらいたがっている奴でさ。だから、何も求めないのに、等身大の自分を必要としてくれる東には優しいのかなって」




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