「その「ヨウ」さんは、今度のコミケで新作を出すよ? 今のところはそれだけかな」
「え、いつのコミケですか?」
「来月の最終日曜日」
「……あ、俺、その日、家の都合で行けないイベントです…竜北さんも出ますよね。俺楽しみにしていたのに、それも買いに行けないし…」
「大丈夫だって。俺、東の分は取っとくし、それにきっと「ヨウ」さんだってとっておいてくれるよ?」
さも当たり前かのように竜北さんはそう言った。俺は「ヨウ」さんにそうしてもらうように頼めるすべもなくて、そんなことが叶うのだろうかと不安になる。

「な、ヨウちゃん、東の分は取っておいてくれるよな。こんなにも東は惚れてるんだぞ?」
「…え?」
俺は竜北さんが西野さんに向かってそう言ったのに驚く。
西野さんは顔を赤らめて「気に言ってくれたのなら、ありがとう。よかったら新作もらってね」と言ってくれた。俺は瞬時に「いいんですか?」と聞いた。そんなの、今さら嫌だって言われてももらう気満々のくせに。
「うん、東くんには置いておくね?」
「ありがとうございます」
俺は心からお礼を言うと、西野さんの机の上に今もなお広がっている紙の山に、ドキドキしてきた。これから西野さんは素敵な物語を紡いでいくんだと。

「ちょっと西野。俺のは?」
「は、竜北はいらないでしょ。だって僕の承諾もなしに、僕の作品を人に見せるだなんて最低!」
「ごめん、怒らないでよ。俺は西野のよさをもっと多くの人に!」
「そういうの、余計なお世話って言うんだ」
西野さんはそう言って鉛筆を手から放すと竜北さんの方を向いて、
「でも、嬉しかったのも本当なんだ。ありがとう」
と、小さくほほ笑んだ。俺も微笑んでしまった。西野さん本当に可愛いな。




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