「おっはよーっ」
遅刻しちゃった。てへ。なんて古典的なことをしながら、可愛い仕草でいそいそとメルヘンとバラユリ世界が飛び交う席に座ったのは西野さんといって、ここのまとめ役だ。
西野さんは可愛いものと同性愛的なものが大好きな方。そしてロマンティストで、俺は西野さんが書くBL小説もとても好きだ。本当、登場人物がありえないくらい可愛らしくてたまらないんだ。
「西野、遅刻はいいけど、新作できたのかな?」
竜北さんは大きい身体をそわそわさせて西野さんを見つめた。
新作という言葉に俺も反応して、西野さんを見つめた。
「僕さ、スランプかもしんない」
西野さんは机の上にあった可愛らしい熊さんの人形を抱きしめて「全く書けなくなっちゃった」と顔をふせた。そして、その辺にあった、ちょっと会社に持ってくるのはどうかしているかもしれないエロい表紙のBL小説を俺と竜北さんに差し出した。
「僕、エロしか書けなくなった…」
「待て、西野、俺は、俺は、西野の書く、あの可愛らしい世界観が大好きで…って、スランプならしかたないか…ごめんね、でも西野が書いたものだもん、俺、きっとこれも好きになると思うよ」
「……あの、これって」
「言わないで、東くん」
西野さんは顔を真っ赤にして、可愛らしい熊さんの人形から少し顔を出して俺を見上げた。俺は「ピンク文庫ですよね」と言葉を続けるのを止めた。すると竜北さんは「金に困っているのか?」と深刻な顔をして西野さんと向き合う。
「違うんだよ、友達に言われてノリで書いたエロが、僕の知らない所で、投稿されていたんだよ。ま、デビューは断ったんだけど…さ」
「断ったんですか?」
何処かもったいないような気がして俺がそう聞くと、竜北さんは俺の頭を三回優しく叩いた。
「しゃあない、よな。プロは面倒だし」
「竜北、わかってくれるの?」
まるで全てを理解し合っているかのように二人の間に温かい空気が生まれる。俺は自分だけのけ者のようで少し複雑な気持ちになる。そんな自分の醜さが嫌いだった。




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