「あ…とりあえず、お風呂に入ってきますね」
高良はふと自分が濡れていることに気がついたかのように、浴室に向かった。
俺は不謹慎にも緩んでいく自分の頬を抑える。

「…なんでっ」
胸の中が幸せでいっぱいになった。
高良は、きっと、自分が雨に濡れてしまうことを忘れて誰かに傘を渡したんだろう。でも、その帰り道ではもう、きっと俺のことが心配で自分が雨にぬれていることも気がつかずに早足で帰ってきてくれたんだろう。

絶対に俺は世界で一番間抜けな顔をしているに違いない。

そして高良がお風呂からあがってきた今も、その顔が治っていないと自分でわかるから、その辺にあったクッションで隠していた。

「あ、竜北さん、西野さんから、新作の原稿もらってきましたよ?」
今から読みますか?と高良は楽しそうに鞄の中をあさった。だけど俺は今顔がそれどころではない。
「あれ、まだ、しんどいですか?」
西野さんの作品ですよ?と高良は心配そうに首を傾げる。

駄目だ。
いちいち可愛く見えてしかたない。

はじめは、高良のこと、無口で無表情で、何を考えているのかわからない奴だと思っていたのに。一度、理解してしまったら、本当に君はわかりやすいくらいお人よしで。
「ううん。しんどくなんてないよ」
「そうですか、よかったです」
高良が俺に向かって笑ってくれるのが嬉しいから。




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