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「……なんてことだ」
遅刻して出社した上条くんは壊れたホワイトボードを見つめて呟いた。
「ごめりんこ。だって、チャラ男ちゃんがこなくて、僕いらいらしちゃって、つぶしちゃったのりんりん」
どこの萌えキャラだろうかってくらいの口調で西野さんは上条くんに話しかけていた。

でも少しして、ものすごく低い声で「ね、どうして遅れたの?」と上条くんを睨んだ。

「いや、その、ちょっと俺の大切な人が…」
普段正々堂々としている上条くんがどこか遠くを見て呟く。
明らかに、嘘みたい。
「へぇ、チャラ男が、次の会議頑張ろうって言ったのに、それくらいの気持ちなんだ?」
「それくらいとか言うなよ!」
上条くんは叫んだ。
「もし、もしも、今から、西野さんがとっても好きな未入手のBL作品を限定5セットでそこのゲーム屋さんで売られるって言われたら、貴方はどうしますか?」
「買いに行くね」
数ミリの迷いなく西野さんはそう言った。
俺も竜北さんも、買いに行くだろう。

「そう言うことです」
上条くんは鞄から、携帯ゲーム機を取り出して、電源を入れた。
「俺、ギャルゲーが大好きなんです。ちなみにこれが、嫁です。そして今日はこの子のオンリーゲームが予約なしの販売だったんですよ!」
そう言って紹介された上条くんのお嫁さんは、ショートヘアにつぶらな瞳の、ちょっとおとなしそうな女の子だった。

「「「ご苦労様でした」」」
俺たちは上条くんに労わりの言葉をかけた。それが同じ戦場を味わった者同士の礼儀だ。




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