11




それから、しばらくして竜北さんはお茶を買って帰ってきた。
「あらら、遅かったわね?」
お母さんは何か面白そうに笑う。竜北さんは拗ねたような顔をして「だって」と呟く。

「ま、それはそれとして、お見合いのことなんだけど、断るつもりなら、はじめから相手に会わなくていいわ」
「母さん、なんで断るって…」
竜北さんは驚いたような顔をして言った。すると「これでもあなたの母親よ」とお母さんはお茶を飲む。
「正直、認めたくなかった。だから、知らない振りをしていた。でも、もう、嘘吐かないでほしいの」
お母さんはとても悲しそうにほほ笑む。
「広文はもう立派な大人じゃない。もう私の顔色を見なくていいわ」
「別にそんなつもりじゃ…」
「じゃあ、どういうつもりなの? 自分の想いをつきとおすことに私は反対しない。だけど、それをするときに必要以上に誰かを巻き込む必要なんてないの。お見合いだって断るつもりでするくらいなら、はじめから断ればいい。じゃないと先方の人が可哀相よ。時間をあなたに使って、気に入られようと頑張って断られるのよ、結局」
「……」
「でも、広文が、頑張ろうとしてくれたのは嬉しかったわ。でもね、広文はもう大人でも、一人で悩んじゃ駄目よ。あなた、ちょっと馬鹿だもの」
不器用すぎるから誰かに相談して、知恵をつけてもらわないとね、とお母さんは言った。竜北さんはとてもしんみりとした顔で頷いている。
「ごめんなさい。俺、向こうのひとに、女の人愛せないって言おうと思っていて…。ちゃんと説明しようと思っていて…もう、逃げないってそればかり考えていて」
「そう…。わかったわ。広文。嘘も方便よ」
お母さんはにこりと笑うとお見合いを取りやめる電話をかけ始めた。理由は息子の気持ちが変わったとのことだった。そして、電話を終えると俺と竜北さんを見つめて「本当のことはね、そんなに大勢が知らなくてもいいのよ」と呟いた。




- 131 -


[*前] | [次#]
目次に戻る→


以下はナノ様の広告になります。
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -