[山田に恋する俺は馬鹿ですか?]




★1
=拓也side=
生きる感覚がわからない。
俺は、ただ山田が好きで、それが嫌だ。
山田には恋人がいて、俺の入り込む隙なんてない。
泣きたいのに、泣けない。
だって、そんなの女々しいだろ。
そう、思うのに、俺はとっても格好悪い男で。
山田が恋人に笑いかけるのを見て、泣いてしまった。



★2
=山田side=
「大丈夫か?」
俺は急に泣き出した、拓也を心配した。
拓也は何も言わずに、うつむいて、何も言わない。
俺も何も言わずに、拓也の隣にいようと決めた。
早く、元気になってくれって、心の中で叫びながら。
静かに、拓也の手を握ったのだ。



★3
その夜、拓也は感情なんていらないと言った。
こんなにも辛いなら、何もいらないと言った。
生きることがわからないと言った。
俺は何も言ってやれなかった。
それでも、拓也がいない世界なんて想像もつかない。
「馬鹿か」
そう言って拓也の頭を思いっきり、抱きしめることしか、俺には、出来なかった。



★4
=拓也side=
山田は俺のことを馬鹿だと言った。
そうか、と納得した。
俺は馬鹿だから、こんなにも苦しんでいるのかもしれない。
「山田、俺、どうしたらいいんだろう?」
俺は馬鹿だから、わからない。
だとしたら、学年一の天才はきっといい答えを知っているって俺は疑わなかった。
なのに、山田は口元を押さえると、どこか遠くを見た。
そして、俺から目線をそらして「そうだな…」と言葉を濁しただけ。



★5
=山田side=
拓也にどうしたらいいのかって聞かれて、困った。
拓也の瞳が涙にぬれていて、色っぽくて、困った。
「どうもしなくていいんじゃないかな?」
他にいろんな言葉が頭には浮かんでいたのに、俺は情けないアドバイスを始めようとしていた。
拓也はそんな俺を、キラキラした目で、見つめる。
「拓也は拓也でいいんだよ」
だから、俺は君が好きになったんだ。
秘密だけど。



★6
「感情はさ、時に、辛くなるものだし、めんどくさいし、生きているってどういうことって、難しいこと考えさせるものかもしれないが、いらないとか言うのは、やっぱり馬鹿だよ」
「馬鹿ってそんなに言うなよ」
「ごめんごめん。でも、感情がないと、幸せを感じることもないんだよ。人を好きになると、悲しいことも多いけど、それだけじゃないんだよ」
「山田、俺が、泣いている理由、知って…」
「知ってる」
そんなの、拓也の隣に毎日いたら、嫌でもわかるよ。
俺に好意を寄せている女のこと俺が話していたら、悲しそうな顔する。
あの子の、どこがいいのか、俺にはわからないが、それが、拓也の好きな人なら仕方ないと思っている。



★7
そりゃ…
俺だって、拓也が他の誰かを見ていたら、
正直、悲しいと思うし、こんな感情はいらないと思うよ。
だけど、忘れたくないんだ。
叶わなくてもいい。
君に恋をした、この瞬間をいつか、笑い話にできる日がくるのを信じて、いつか、幸せになれるのを信じて、俺は自分をないがしろにしないことにした。
拓也、君が教えてくれたんだ。
世界は悲しみが100%で構成されていないことを。



★8
=拓也side=
山田は言った。
「今、辛いと感じるってことは、いつか幸せが自分のもとに来た時、大切にできる人なんだ。だから、いらないなんて言わないで、大切にしよう」
「……でも」
「夢は、叶うものとは言いません。でも、諦めた夢はかなわないものです」
「それって」
「俺の大切な人がくれた有難い言葉だ」
そう言って、山田は、顔を赤くして、そっぽを向いた。
それは、昔、俺が作った小説のなかの言葉だった。



★9
「山田」
「なんだよ?」
「こっち向いて」
「嫌だよ」
「どうして?」
「内緒だ」
「どうして?」
「馬鹿にはわからなくていい」
「そう」
だったらいいよね。
俺、馬鹿だから、わからない。
わからないから、この距離をなくしてもいいよね。
俺には、わからないんだ。
山田が好きってことで頭いっぱいだもん。



★10
=山田side=
「拓也?」
急に抱きしめられて、俺は驚いた。
どうしたんだ、拓也。
いや、別に友達同士だし、意識する方がおかしいよな。
ああ、そうそう、そうだ。
「温かい」
「…たく、や?」
「山田、俺、今、幸せかもしれない」
「どうしてだよ?」
「天才にはわからなくていいんだよ」
拓也はそう言って、涙を拭いて笑った。
俺は、ただ、拓也が幸せだと言ってくれたことが嬉しくて、それ以上、何も考えられなかった。

この話の矛盾点にも、目が行かない。そして、拓也が「好き」だと俺に告白してきたのはまた別のお話になる。


最後に一つ、俺は言いたい。
ほら、叶っただろうと。
独りごとを。






fin



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