覚悟しいや?
とある休日、俺の家で、ぽつりと龍一はつぶやいた。
「どうして、マンホール職人は、同性を好きになったからって、神さまに消されたのかな?」
人が人を好きになる、それだけのことなのに、どうして、神さまは怒ったのかな、と。
「俺、最近、わかったんやけど…」
龍一と両想いになれて、付き合ってしばらくして、俺はあの時に即興で作ったマンホール職人のお話に、つじつまを合わせるように、一人解説を考えていた。
そして、行きついた答えが俺の中にはあった。
恥ずかしいので、誰にも言うつもりはなかったんやけど…
「叔父さん?」
「ああ、ごめん、少し話すん恥ずかしいなって思ってな」
戸惑ってしまったんや、と俺は照れながら笑った。
「同性愛は、な、子どもつくられへんやろ? 俺はそれが罪やと思う」
「少子化社会だから、余計にね…」
「ちゃうねん、そういう意味やない」
「じゃあ、どういう意味なん?」
「あんな…、俺たちは両親が愛し合って生まれてきたわけやん。そして、な、今、幸せやん。きっとな、子どもができたりしたら、この幸せも子どもに引き渡していけると思うんねん。やからな、その連鎖を、止めてしまうことは罪やと思うねん。つまりな、自分ばかりが幸せってことで…」
上手く説明できない自分に歯がゆさを感じた。
なのに、龍一はゆったりとほほ笑むと「わかったよ」と頷いてくれた。
伝わった。よかったよ…
「ようは、俺たちはこうして愛し愛される幸せを知っていても、次につなげることができない。それが罪なんだよね」
「幸せの連鎖を止めるって言う意味でね」
「確かに、生きていてこんなにも幸せになれるなら、俺は、この幸せを誰かに渡したいな」
「俺も渡したいのにな…」
「ごめんね…?」
「え?」
「俺が、女の子だったら、叔父さんは…」
「馬鹿、俺は龍一だからよかったんだよ? そんなこと言うなら、俺が…」
「お、俺だって、俺だって、清志叔父さんやから、好きになったんや!」
真剣にそう言って俺を見つめる龍一の瞳があまりにも真剣で、
俺は愛おしいと思った。
「龍一」
俺はそっと龍一を抱きしめた。
そのまま、ゆっくりとベットの方へ、押し倒した。
「叔父さん?」
「…っあ、ごめん」
何をしているんだろう。
いくら、龍一が愛おしいからって何をこんな時に押し倒そうとしているんだ。
というか、俺は何をしようとしたんだ。
お、恐ろしい。
「ほんま、ごめん!」
ただただ俺は謝った。
なのに、龍一は「せぇへんの?」と甘い声を出す。
それで我慢できるわけもなく、俺は、龍一にキスをした。
何度も何度も、何度も。
深いキス。
ここから先に進みたいと願うようなキス。
「ん」
色っぽく瞳を揺らすと、龍一は俺の方を見つめて笑う。
「叔父さん、俺ね、答えがでたよ。簡単だよ。愛を次に送れないとしたら、ここでとどめることが罪だとしたら、馬鹿ほど、幸せになろう。神さまだってそのうちに呆れて認めてくれるって思う」
「龍一っ」
そうだよな。そうだよな。
変な罪悪感なんて感じていたらダメだよな。
きっと、神さまだって呆れてくれる。
それ以上に龍一のことを愛しているし、俺はこうして隣にいることが幸せだ。
やけど、今はそんな難しいことよりも、愛を確かめたい。
「あおった責任はとってな。龍一、覚悟しいや」
「優しく、して、ね?」
「そう思うんだったらあまり可愛いこと言わんとって…」
「はぁい、でも早く、俺、もう我慢できないよ?」
触れるだけのキスをして、龍一は色っぽい顔をした。
俺はその龍一の手をとって、自分の手と絡めると、そのまま、ベットに二人して転がり込んだ。
以下、暗転。
後日、俺は真剣に龍一に言ったんや。
神さまが呆れるくらい愛するから、覚悟しいや! と。
すると龍一は、それは叔父さんのほうや、と自信に満ちた表情をした。
俺にはそれが一生、幸せでいましょうねっていう、プロポーズに聞こえたんやわ。
この先、何があっても、永遠の愛を誓います。
fin