大切なこと!




「そういえば、清志叔父さんの作ったものって…どんなんやったん?」

俺は急にふと思って聞いたら、清志叔父さんは「急にどうないしたんや?」と笑った。

「あ、ごまかそうとしても、無駄だよ!」

「…龍一は、手ごわくなったな…」

「清志叔父さんが逃げ腰になるのが多いからだよ…」

そりゃあ、なる。
ずっと隣にいるようになっても、清志叔父さんは、たまに隠し事をする。

その時、必ず、斜め45度上を向いて笑うんだ。


「言いたくないならいいけど…」

俺は視線を地面に落した。
叔父さんはこれに弱い。だいたいのことなら、これで話してくれるって俺は知っていた。

「ごめん、ごめん、隠すようなことちゃうんやけど、信じてもらえないと悲しいから」

「え、そんなすごいもの発明したん?」

「いや、ただの若返り薬や」

「へぇー」

なんや、ただの若返りの薬か。
……え?


「叔父さん!」


「なんや、龍一」

「今、ただのって言った?」

「え、言ったけど…」

それがどうしたんや、とのんびりと叔父さんは答えた。

「若返りの薬なんて、俺にも無理やのに…というか、そんなすごいもの、どうして作ったん!」

「極秘や」

「……まあ、俺は作らないからいいけど」

「やろ、いらんやろ。若返りの薬やなんて」

叔父さんは子供のように笑った。

「でも、俺がそんなすごいもの発明したんやったら、公表してしまいたくなるけど、叔父さんはええの?」

ただ自分のところでそんなすごい発明を止めてしまっても。
同じ、薬の開発者として、俺は疑問に思った。

「ええんやで」

清志叔父さんはなんのためらいもなく答えた。

「やって、そんなものがあったとして、何になるん?」

「何になるってそんな、誰でも若返りたいと思うんじゃないかな…俺はまだいいけど…」

「…龍一、実は、俺もな、若返りたいと思って作ったんや。けど、考えてみぃ。若返ったからって、高校生にはなられへんやろ。戻られへんやろ。それに、世の中が混乱してしまう。今まで築き上げてきた地盤が崩れてしまう」

「確かにそうかもしれないけど…」


「…じゃあ、龍一は、俺が、若いほうがいい?」


「え?」

「俺が同い年の方がいい?」

悲しそうな顔をして、叔父さんは俺の顔を覗き込んだ。
俺は、首を横に振った。

「俺は、叔父さんが好き。たぶん、それはどっちにしても、変わらないと思う…」

今のままでもいいし、別に若くなってもいいし、明日急におじいちゃんになっていても、変わらない。

「…変わらないよ」

どんなことになっても清志叔父さんは清志叔父さんだから。
俺は恥ずかしいけど、ちゃんとそう伝えた。
すると、清志叔父さんは俺をぎゅっと抱きしめた。


「そういうこと」

「え?」

俺はどういうことかわからなかった。

「やから、そんなものなくても、幸せになれるってことやから」

いらないやろ?
清志叔父さんはそう言って笑った。
俺は「確かに」と頷いた。






‐fin‐







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