5
意識がとろんとして、
俺はただ離れた唇の寂しさに、
耐えられない気がした。
知りたくなかった。
こんなことなら、
安らかになる瞬間なんて…
怖くなるから、
俺…
「千香ちゃん…どうして?」
「…ぇ?」
「泣いているの?」
「え?」
頬を涙がつたう。
俺は泣いていた。
どうしてなのか、わからない。
幸せなのに。
嬉しいのに。
「ごめんね、違うんだ」
キスされて嫌だったとかそんなんじゃないんだ。
俺はくり返してくり返して水戸くんにそう言った。
離れていかないで…
その一言だけは言えなかったけど。
俺は強く、水戸くんの服の袖を握った。
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