わからないまま
=千香side=
いつまでも、俺は逃げているのかな。
ずっと、このままでいいのかな。
わからない。
ただ好きなのに、怖くて仕方ない。
俺は、いつだって自分に自信がつかない。
伸ばした手が、行き場を失う、
そんな思いを
もうしたくないと、
いつも思っていた。
いつまでも思っているのだろうか…
本当は教師になりたかった。
俺のお父さんは格好いい教師だった。
女たらしの恋愛気質を除けば、俺の憧れだった。
母さんが俺を捨てて家を出て行っても、お父さんは俺の面倒を見てくれた。
寂しなんて思わなかった。
お父さんがいたらいいやってずっと思っていた。
でも、お父さんに、新しい恋人が出来て、結婚することになった。
俺は急に邪魔になる。
お父さんは決して俺に冷たくなんてなかったけど、
親戚の家に預けられた時、俺は「行かないで」とお父さんに手を伸ばした。
このまま捨てられるんじゃないかって思った。
怖くなって伸ばした手をお父さんは握って、
ごめんな、と俺に言った。
いっそ、冷たくしてくれたらよかったのに。
俺は何も言えなかった。
お父さんのことを嫌うこともできず、
俺のことを嫌ってもらうこともできず、
ただ、お互いに愛情はあるのに、
引き離させた…
それがたまらなく、意味がわからなくて、
不安で、
虚ろだった。
「俺の名前は神崎だから、神崎って気楽に呼んでね?」
「千香」じゃなくていい。
俺はお父さんがくれた「神崎」がいい。
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